終章 道具屋の女の子

 赤の国を丸一日過ごした次の日の昼。

 セキはココが乗った馬車をタバコを吹かして見送っていた。

「本当にいい子だよ。次にココちゃんがこの国に来た時の楽しみができたな。まあ、その前にやることやらないとだがな」

 セキは隠密行動を取っていたタクミが帰ってきたのを確認する。

「セキさん。あまり、女性と遊んでいますと、ヒナさんが怒りますよ」

「大丈夫だよ。昨日、ちゃんと紹介したから、ちょっと、機嫌悪かったが」

「それが、問題なんですよ。まったく、イケメンに生まれたかったですね」

 タクミは嫌味をぶつけ、セキに報告書を渡す。

「どうも」

 セキはタクミの嫌味も気にせず報告書を読む。

「とりあえず、越冬はできそうだな」

「まあ、雪や食料不足の問題は青の国でもありそうなので」

「なる程な。軍事力の差は子供と大人ほどあるな。減らせよ」

「それだけ本気なんですよ」

「小国なのにな。なあ、アオシはどうなってるんだ?」

「行方不明です。国民には病気で倒れたと知らせていますが」

「嘘は明白なんだがな。それを位が高い、貴族らがアオヤと一緒になって画策した。はあ、青の国の国民に手を出したら、赤の国も立場が危うくなるな」

「どうするんですか?」

「そりゃ、護りに徹するさ」

「護りきれますか?」

「勿論、それができないなら、とっくに降伏しているよ。俺の命でどうこうなるなら、安いからな」

「セキさん。やっぱ、あんたヤバい奴だな」

「だろう?」

 セキは笑った。

「さて、トシにも共有するか」

「はい」

 セキは赤の国に戻った。



 馬車の中。

 ココは赤の国を去った。

「魔王さん。赤の国はいいところでしたね」

『そりゃ、よかったな』

 昨晩には魔王とも連絡が取れるようになっていた。

『しかし、最初とは大違いだな』

「だって、知らなかったんですもの」

『まあ、そうだったな。それで、成果はあったのか?』

「はい。セキさんからアイテム貰いました。それと、目標もできました」

『それは?』

「赤の国に2号店を構えることです」

『お前、本気で言っているのか?』

「本気ですよ。資金は必要ですし、ゴタゴタが治まっていないので、大分先ですが、魔王さんは嫌ですか?」

『嫌に決まっているだろう。アイツがいるところで店なんて、生きた心地がしねーよ!』

「魔王さんなのにビビっているんですか?」

『ビビっているさ。悪いか。アイツだけはダメだ』

「そんなことする人には見えないんですが」

『燃やされたことないから言えるんだよ』

「燃やされましたよ」

『はあ! なんで』

「興味がありましたから」

『熱かったのに、バカなのか?』

「セキさんは敵ではない人には熱くない炎も出せますよ。ほら、空飛んでいる時とか、熱く無かったでしょう?」

『まあ、確かに』

「だから、燃やされました。初めて炎の中に入りました。これはこれで面白いですね」

『物好きだな』

 魔王は呆れ果てている。

「でも、ご利益ありそうじゃないですか。熱くない青い炎って、だから、なにかいいことありそうって思いましたよ」

『流石のアイツも困っていただろうな』

 魔王は呟く。

「何か言いましたか?」

『いいや。なにも。お前さんが物好きで先が思いやられるって思っただけだよ』

「心配してくれているんですね」

『一応な。なにかあったら、アイツが怒るからな。敵に回したくない相手を見極めただけだよ』

「そうですか、でしたら、これからもよろしくお願いいたします」

『はいはい』

 魔王は先が思いやられてはいたが、道具屋の店員と魔王の関係は、もうしばらく続きそうだ。



終わり。

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道具屋ココの雑記帳 叢雲ルカ @luke0811

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