道具屋に通うお客様③-1
今日は珍しいお客様が来た。
勇者一行様だ。
『なんで、アイツらが』
店内をくまなく品定めしている勇者一行に、カウンターにいる水晶玉の魔王が反応する。
「知り合いですか?」
ココが聞く。
『見て分からないか。勇者一行だぞ』
勇者と魔王の因縁は太古に遡る。
倒し倒され、それを繰り返し行っているのが、勇者と魔王だ。
その因縁の相手が目の前にいるので、魔王は穏やかではいられないのだ。
「え、本当ですか!」
ココのテンションが上がる。
『お前、気付いてなかったのか?』
「ええ」
『お前、本当に天然だな』
「天然じゃありません!」
ココは口を尖らせ否定する。
「あ、店主ですか?」
勇者ライトが声をかける。
「はい」
「この店、ある人の紹介で来たんですが」
「ある人?」
「赤の国の王です」
(アイツかい!)
魔王が突っ込む。
「そうだったんですね。でも、なんで、隣国の国王様がこの店知っているのかな?」
「なんでも、部下がお世話になっているからだそうです」
「ああ、それでしたら、サイジョウさんですね」
(いや、常連客に王のバカいるからな!)
王が冒険者やっているのを、勇者には隠していないだろう。ココにすぐに身分を話す辺り、あまり、深く考えて行動するような輩ではないし、バカは何処に行っても目立つ存在だ。
(そう言えば信じて貰えなかったって、言ってたか)
王がココの天然を考慮したのかも知れないと、魔王は呆れた。
「それで、今回はどのような用件ですか?」
「旅に出るので、資金調達のアイテム鑑定と、買い出しです」
「ありがとうございます。それでは鑑定するアイテムをお願いします」
「はい」
ライトはアイテムを出す。
「そう言えば、王から聞いたのですが、ここには正確なアイテム鑑定ができるアイテムがあるとか」
(あのバカ、話しやがったな)
「ええ、この水晶玉です」
目の前にある水晶玉を見せる。
「なになに、魔法のアイテム?」
勇者一行の仲間、魔法使いのダンテが水晶玉を見る。
「はい。しかも、喋ります」
(おい、天然、余計なことを言うな!)
『ナニヲ鑑定スルノデスカ?』
魔王は片言で話す。
「いつもは、流暢に話すのになんで、片言なんですか?」
ココが突っ込む。
『緊張ダ』
「魔王さんも緊張するんですね」
『天然! 空気読め!』
「魔王?」
ライトが剣を構え、ダンテが魔法の杖を構える。
「ここで会ったが100年目、お前を倒す!」
『まあ、待て、俺様を倒したところで、世界は平和にならないぞ。よく、考えろ勇者よ』
「落として割っても?」
ダンテは水晶玉を持っている。
ココは驚き目を丸くし、口をパクパクあたふたしていた。
『当たり前だ! それに、勇者一行がどこにでもある、道具屋の私物を簡単に、しかも、故意にぶっ壊したら、印象悪くなるぞ』
「それもそうね」
ダンテはココの驚いた顔を見て、あっさり諦め、水晶玉を元の位置に戻す。
「それで、なに、企んでいるの?」
『お前らには関係ない』
「そうはいかない。被害が出たら困る」
ライトがもっともなことを言う。
『はあ……。勇者。お前、俺様を持って表に出ろ。訳はそこで話すから。おい、道具屋いいな』
「はい。込み入った話でしたら、構いませんよ。その間に、購入するアイテムを計算していますので」
ダンテが用意したアイテムの精算に入った。
ライトは水晶玉を持とうとしたが、水晶玉を突っつくまでに終わる。
『んな。呪わないよ! だったら魔女が既に呪われているだろう』
「確かに」
ライトは恐る恐る持ち、なにもないのを確認すると、店を出た。
「魔王が鑑定するアイテムなんて、よく、手に入れたわね」
ダンテが聞く。
「普通に販売してたので、珍しいアイテムだと思ったんですよ」
「しかし、なんで、大人しく鑑定なんかしているの?」
「私も分かりません。でも、ある日を境に大人しくなったんですよね。悪さもしようとしないし、それが不思議なんですよね」
「ある日?」
「はい。私もなにがあったか分からないのですが、疲労で倒れた日がありまして、それを境に」
「心配になったって、ことなのかな?」
「だったらいいんですけどね」
ココは笑顔を見せた。
「それより、そのペンダント。素敵ですね。噂に聞く勇者専用ですよね?」
ココはダンテの胸元にあるペンダントに反応する。
「これ? そうよ。よく知ってるね」
「はい。冒険者新聞にも載ってましたよね? 本物はどんなアイテムですか?」
ココは目を輝かせて聞く。
「これは、各属性が初級程度耐性があるるアイテムよ。ペンダントの他にブローチや指輪、ブローチなんかもあるわ」
「へー。レプリカはマジックアイテムと言うより、お土産品だから、そんな効果ないのよね。でも、それだけなら、勇者一行が装備するには弱いかと」
「確かに。他にもあるのよ。炎は殆ど耐性があるの」
「って、ことは、お料理しても火傷が酷くならないってことですか?」
ココは興奮している。
「ま、そうなるわね」
(魔王が天然って、言った意味分かるかも、もう一つの加護の力は隠しておこう)
ダンテは苦笑いする。
「凄い。欲しいな。コレクションしたい。たまに、商人が持って来るのも、レプリカで本物はないのよね」
「まあ、一般流通してないって、話しだからね。無料で貰う条件にこのアイテムをお土産品として、宣伝して欲しいって、言われているの。だから、装備しているけど、まだまだ、レベルの低い私達には、願ってもない力でね。炎耐性は強力だから、もう、外してもいい頃合いにはなっているけど、今も装備しているわ。多分、ずっと着けるわね」
「いいな。欲しいな」
ココは羨ましがっていた。
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