道具屋に通うお客様①

 ココが店内の清掃をしていると、扉が開いた。

「ココちゃん」

「あ、セキさん。いらっしゃい」

 冒険者セキである。

 冒険者ランクはFランクの最下層で、よく、冒険者やっていられているのか、謎な男である。

 世界には能力を持つものと、持たないものに別れており、ココは持たないもの。親友のエマは持つもの。しかも、高能力者だ。そして、セキも微弱だが、持つものらしい。ココは目の前で使っている姿を見たことがないのだ。

 整った顔立ちの好青年。もっと褒めるならイケメンだ。

 セキはココの道具屋の常連客である。

「こんにちは」

 セキは明るく挨拶する。

「この間のお茶ありがとうございます」

 セキはこうやって、時折、珍しい物を提供する。

「どうだった?」

「とても、いい香りの美味しいお茶でした」

「そいつは、よかった」

「また、手に入れたら買い取りますね」

「ああ、分かったよ」

 セキと言う青年は不思議な、男である。

 ある日、突然やって来た。

 お店に入りいきなり、ココをナンパしたのだ。

 勿論、ココは驚いたが断った。

 そこから、懲りずにセキが入り浸るので、ココが折れたのだ。

 恋人ではなく、友人として付き合うことになった。

 セキは勿論、それを分かった上で足を運ぶので、ココを諦めていないのか、なにか別の目的があるのか分からないが、少なくとも悪い人ではないのは、ココも直感的に分かった。

「今回はどのような用事ですか?」

「そうそう。アイテムを換金して欲しくてね」

 セキはアイテムを出す。

 装飾がキレイなナイフや宝石である。

 魔物を倒して手に入る魔石もあった。

「セキさん。毎回思うのですが、どうやって手に入れているんですか?」

 セキの冒険者レベルで拾えるようなアイテムではなかった。

「これかい? まあ、あれだな。貰い物だ」

「誰がくれるのですか?」

「友人の冒険者だ」

 セキはわざとらしく言う。

 悪い人ではないけど、隠しごとは多い。

 恐らく、これも、嘘なのは分かる。ただ、なにを嘘ついているかまでは分からない。本当に優しい友人がいるのかも知れないからだ。

「盗品じゃないのは、絶対補償するから、そこは、信頼の問題になるから、裏切ることはしないよ」

「まあ、入手方法を聞くのは、ご法度なところもありますので、追及しませんが」

「ありがとう」

 セキは微笑む。

「ところで、ココちゃん。なにか、悩んでない? 聞くよ。俺でよければ」

「どうして、そんなことを?」

「いやね。なんとなく分かるんだよ。俺、昔から、感がいいつーか」

 ココが思うに、微弱な能力は、そんな不思議な力なのかも知れない。

 セキの眼鏡の奥に見える眼はそれを見透かしているのかも知れないのだ。

「実はですね。エマ。親友が赤の国に行ったんです。でも、ドラゴンはいたり、王が代わったりして、治安は大丈夫か心配で」

「なる程な」

 セキは目を細め、眼鏡を上げる。

「せめて、新しい国王がどんな人か分かればと思っていて」

「俺、知ってるよ」

「本当ですか! あの、どんな方か伺ってもいいですか?」

「いいよ。ココちゃんなら、話すけど。俺が実は国王なんだ」

 セキは真顔で答える。

 その間、ココは目が点になっていた。

「って、言ったらココちゃん。どう思う?」

 と、思ったら、セキは急に笑う。

「まさか、そんな訳。ドラゴン倒すような人には見えません。って、思います。私が思うに屈強な戦士か、傭兵か、とにかく、強い人かと」

 少なくとも、今、目の前で相談に乗って貰っているFランク冒険者ではないと、ココは思っていた。

「そっか、まあ、普通はそうだな。でも、赤の国の王を簡単に言うと、そんな感じの人かな」

「セキさんみたいな人ですか?」

「そうだよ。だから、国民を悪いように扱わないと思うよ。特に女性には、そうだな。例えば、ココちゃんを悲しませる野郎がいるなら、その野郎を国内で晒し者にして、国外追放処分にするかな」

「でしたら、大丈夫ですね!」

「そうだな。まあ、それでも心配なら、その内遊びに行くといいじゃん。俺、案内するよ」

「それもそうですね。相談に乗って貰ってありがとうございます」

「おう。これくらいお安い御用だよ。さて、鑑定終わるまで食事にでも行くかな」

 セキは店を出て、裏道に入り、ライターで火を点けタバコを吸う。

「うーん。やっぱり信じて貰えないよな。まあ、いっか」

 タバコを灰も残らず、燃やし尽くす。

 この男、本当に赤の国の現国王をやっているのだが、ココがその事実を知るのは、少し先の話し。

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