道具屋に通うお客様④-1
本日も天気はいい。
今日は大量注文があった品物の引き取り日だ。
ココの店が繁盛しているのは、こう言う大型の取引が絶えずあるからだ。
「ごめんくださーい」
色白で、少し小柄な男性がやって来た。
「あ、はい」
「ソウゴと言います。先日、サイジョウが注文しました品物を取りに来ました」
「あ、文具セットですか?」
「はい。先日は、忙しくて代わりをお願いしました」
「そうでしたか。今、取りに行きますね。待ってて下さい」
「はーい」
ココが品物を取りに倉庫に向かった。
「定期連絡いいですか?」
ソウゴは椅子に座り、水晶玉に話し掛ける。
『お前、戻ってこいよ!』
「面倒で非効率的ですよね? 目の前に魔王がいるのに」
ソウゴは魔王の手下であった。つまり、赤の国のスパイでもある。
ただ、セキはソウゴの正体に気付いているので、スパイの意味をなしていない。
黙認と言うより、あえて泳がせていると言うのが、正しく。危害を加えない内はセキもソウゴを咎めるつもりはなかった。
『魔王と通信出来るアイテムな!』
「それが、ここにあるなら、戻らなくてもいいのでは? 逆に僕が欲しかったくらいですよ」
『お前、戻らない内に随分、偉くなったな』
「偉くなった訳ではなく、魔王が小さくなったんです。威厳と言いますか。なんと、いいますか。それが今は感じません」
『アイツのせいだ!』
「セキですか?」
『そうだとも』
「魔王は半殺しでしたが、僕は全殺しされそうになりましたが?」
『んな話で、マウント取るな』
「彼の怒りの沸点が高くなったので、僕の勝ちかと?」
『んだから、それを自慢するな!』
「事実なんですがね?」
『まあ、いい。報告だ』
「はい。変わりなくですね」
『なにかあるだろう!』
「そうですね。僕、先生始めました」
『今日は文具の受け取りって言ってたな。それか?』
「はい。これから、戻って、準備します」
『お前、それでいいのか?』
「僕の正体が王にバレている段階で、黙って従うしかないのでは? 王の酔狂に付き合う方が得策かと」
下手に反抗的な態度を取れば、セキは容赦なく切り捨てるだろう。
(いや、切り捨てるのは、寧ろトシさんの方か)
赤の国の官房長官的な役職の男をソウゴは嫌っている。
ソウゴもトシを嫌っているので、お互い様なのだが、セキより、あの男の方が警戒すべき相手である。
彼は目的の為なら、手段を選ばず、人を殺めることも意図はない。
ある意味では、無闇に殺生を好まない、自称平和主義の最強チート男の、セキより危ない男だ。
セキのお陰か、前よりそれは無くなったが、いつソウゴに牙を向けるか分からない。
そんな危険な男。それが官房長官のトシである。
(まあ、あの人、力持ってないから、あまり恐れなくていいんだけどさ)
トシの最大の弱点は特殊な力を、持っていないところだ。
実力差は最初からあるので、実は恐れる必要はない。
しかし、不意討ちもあるので、危険なのは変わらないのだ。
『そうかよ。じゃあ、監視を続けろ』
魔王の返答も投げやりだ。
「分かりました」
「お待たせしました。お持ちしました」
台車にノートや筆記用具等の文具が乗せてあった。
「ありがとうございます」
「ところで、どうやって持ち帰りますか?」
「アイテムボックスがあるので大丈夫です」
「あれ、便利ですよね! 値段が高いのがネックでなかなか手に入らないのですが」
ココのテンションが上がっている。
「はい。国家予算で購入しまして、それを今日は借りました」
ソウゴはアイテムボックスと呼ばれる袋を出し、文具を入れる。
袋の中は異空間となっており、収集が可能なのだ。
取り出すのも簡単で正に魔法のアイテムだが、なかなか、高いので手が出せず、国家予算で購入するのもよくある話であった。
(まあ、セキの場合、金額見ないで買って、お金足りないから、国の物になったんですが)
どんぶり勘定と言う言葉では足りない程、金銭感覚までもが、能力と同じでバグっている国王なのだ。
国が金銭面で陥落しないのは、周りのお陰と言っても過言ではない。
逆に管理が出来ていなかったら、3日で青の国に吸収されているだろう。
(それに、そもそも、セキはアイテムボックス不要だし)
理論や機能の全容が、セキにも分からない。神様から貰ったアイテムボックスのような亜空間をセキは自由に出すことできる。
空間移動も可能みたいなので、本当に神様はなにを付与しているのかと、思う程だ。
しかも、それは、セキの力ではないので、ステータス上では、加護と扱われ、詳しくは出ない。
だから、周りも調べようがないのだ。
本人は聞いたけど忘れたようで、そもそも、調べる気がない。これは、いつもある話なのだが、無茶苦茶な男だ。
そんな王が興味本位で、無駄遣いでポケットマネーで購入したんだが、したのはいいが、お金が足りなくなったので、泣く泣く国家予算で引き落とすことになった。
とんだ暴君なんだが、使途が分かるだけマシと言えばマシであった。
そんなアイテムボックスを、今、ソウゴが使用しているのだ。
「そんな高価な物を普通に購入できるなんて、凄い国ですね!」
「ええ、まあ」
(凄いのは、王の金銭感覚なんですがね)
ソウゴは呆れているので、曖昧な反応をした。
「さて、回収完了。ありがとうございます。また、定期的に頼みますね」
「はい。お待ちしてます」
ソウゴは店を出た。
「ありがとうございました!」
ココは元気に挨拶して、見送った。
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