道具屋に通うお客様⑤-1
今日もココの店にはお客様がいた。
ただ、今日は厄介な客人である。
「だから、お前の目は節穴かって言っているだ」
そう。クレーマーである。
巨漢の男2人がココに言い寄っている。
年に数回こう言った厄介なクレームを言う人が来店する。
アイテムの査定が間違っているや、粗悪なアイテムだの。
大体は、客側の言いがかりである。
女店主が1人で切り盛りしていると、こう言ったトラブルはついて回る。
特にココには強い力は持ってないので、実質無抵抗である。
しかし、店としてやっていけているのは、ココの人望があるからだったりするし、ココもただ、手を子招いて、トラブルが通りすぎるのを待つ訳ではない。
知り合いの冒険者ギルドに報告したり、常連客の力自慢にお願いしたり、まあ、後手になるが防衛手段を取って、損害を返して貰っていた。
たが、今日はそれが出来そうになかった。
『お前さん達は節穴と言うより、目が腐っているだろう?』
査定した魔王が余計なことを言ってしまったからだ。
「魔王さん!」
ココが叱る。
『事実だ。俺様は、間違ってない。コイツは偽物なんだから、それを本物と偽るなんて出来ないよ』
魔王が査定したのは、守備力の高い伝説の盾である。
『第一、伝説の盾が、そこら辺のダンジョンで見つかる方が可笑しいだろう。鑑定するまでもない代物だ』
魔王も冷静さを失っていた。
「五月蝿い。叩き割るぞ」
「ちょっと、お客様!」
腕の太い男が水晶玉を掴み、地面に叩き落とそうとした。
ココが身体で止めに入る所に、細身の腕が、太い腕を掴み割るのを止めに入る。
「穏やかじゃないけど、どうしたの?」
セキが来店していた。
「セキさん!」
ココが目を輝かせる。
セキは全員から事情を聞く。
「なる程、つまり、野郎の2人は、例え贋作だったとしても、守備力高いんだから、高く買い取って欲しいと」
「そうだとも」
セキは男2人の目を交互に見て眼鏡を上げる。
「んで、そこの水晶玉は、贋作どころか、只の木の盾をそれっぽく加工した粗悪品だと言いたいんだな」
『そうだ』
「それで、言い合いになって、ココちゃんは困っていたと」
「はい」
「ちなみにだが、木の盾ってのは、俺は普段装備しないが、装備したら守備力5上がる。スライム位なら防げるあれで間違いないよな?」
セキは売り物の木の盾を指す。
初めての冒険者御用達装備である。
『ああ、あれと同じ守備力だ』
「そっか、まあ、あれと同じって言われたら確かに腹が立って生意気な水晶玉を割りたくなるよな。分かるよ。俺もそうしたいな」
セキは売り物の木の盾に触れる。
『おい!』
「この盾が、相応の守備力があればって話だけどな」
セキは冒険者カードを男達に見せる。
「俺は見ての通りの、Fランクの最下層冒険者だ。腕もあんたらより、断然細い。暴力なんて、てんで出来る体型じゃないのは、見れば分かるだろう? おまけに能力もあってないものだ」
「何が言いたい」
男の1人が不機嫌に答える。
「つまり、この盾が木の盾と同等の守備力なら、俺は殴って傷をつけることは出来るが、贋作でも、相応の守備力があれば、傷もつかないはずだ。ってこと。もし、傷がついたら、買い取り金額はそこの水晶玉の提示通り、もし、傷がつかなかったら、そっちの言い分通りの金額プラス、生意気な水晶玉を割るってのでどうだ?」
「そんな言い分乗ってたまるか」
「それは、偽物なのがバレたくないからか?」
「違う!」
「なら、いいだろう。ココちゃん。いいかい?」
「分かりました。仕方ないです」
「決まりだな」
『俺様の意見はないのか!』
「ないな。話がややこしくなるから、お前は黙ってろ。んじゃ、やるぞ。盾持ってくれ」
男の1人が盾を持つ。
「んじゃ、行くぞ」
セキは拳を作り、盾に向かってストレートパンチを繰り出しす。
(もう1人が強化魔法使いやがった。コイツ!)
盾を持っていない方が、魔法で守備力を強化していた。
魔王だけでなく、ココも視線が、盾ではないもう1人の方に向いており、気付いていた。
パンチは盾に当たり、強化されても、パンチされた部分がへっこんだ。
「あ、ヤバ」
セキは舌を出す。
「お前!」
男達は怒り出す。
「スマン。力出し過ぎちまった!」
セキは謝罪するが、反省してない。
(まあ、コイツには、無駄だったか)
魔王がセキを見る。
もしかしたら、強化されているのも気付いていた可能性がある。
「だが、これで、偽物が証明されたな」
「納得出来ない。そんな力を出して、拳が無傷とか」
「そうだ。それに、こっちは、強化魔法を……」
「おい!」
「しまった!」
魔法を使った方の男が口走る。
「強化魔法使って、コイツの守備力を上げていた。って、ことは、やっぱり偽物じゃないか」
「違う。伝説の盾を傷つけたくなかったからだ。実際、へこんでいるじゃないか」
「そうだな。それは、すまなかったと思う。でも、偽物なのは確かだろう? それを了承して、俺に殴らせた訳だし。まあ、まさか、ここまで、へっこむとは思わなかったが」
「違う! あと、売り物だ!」
「そっか、分かった。そこまで、シラを切るのか、ココちゃん。どう思う?」
「そうですね。まず、お支払は、木の盾分にします。それから、二度と来店しないで下さい」
「なんだと、この女、こっちが大人しくしていたら!」
男の1人が声を荒げる。
「まあまあ、ココちゃんはなにもしていない訳だし、あとは、俺が責任取るから、木の盾のお金貰ったら、表出よう。なっ」
セキが促す。
「お前に何ができるか謎だが、いいだろう」
男達は代金を貰うと、セキと一緒に店を出た。
「セキさん。大丈夫ですかね?」
『ヤバいと思うなら、助け呼ぶなりしろよ』
「確かにそうなんですけど、なんか、大丈夫な気がするんですよね。実際、よく、クレーマーさんといざこざ起こしても、なにもなかったかのように戻って来て」
『だったら、心配することないだろうよ。それより、お前さんの防犯対策の方が心配だな』
「どうしてです?」
『力を持たない女店主1人で、やっているからだよ。襲われたらどうする? いや、そもそも、俺様やアイツが常連客になる前はどうしていたよ』
「どうしていたって、今日みたいなのがあったら、冒険者ギルドに報告してます」
『それは、分かるが命に関わるくらいのだな』
「それが今まで無かったんですよね。運が良かったと言いますか。あと、場所も治安のいいところを選んでいるので、クレーム件数は多くないですよ」
『だとしてもだ』
「でしたら、魔王さんが私を守って下さい」
『そんな契約はない。鑑定だけだ』
「では、いくら出したらやりますか?」
『そっか、そうなるのか?』
「はい。ボディーガードとして雇います。それなら問題ないでしょう? 実際、動けないにしても、水晶玉から力出せますよね? 呪い解くことできましたし」
『ま、まあな。そもそも魔王と契約とか、高くつくぞ』
「どのくらいですか?」
『お前の命と言ったら?』
「えっ!」
ココは目が点になった。
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