道具屋とマジックアイテム②-2

「助かった。ありがとう」

 ハクは気品のいい仕草で、ココの出された紅茶を優雅に飲む。

 セキから購入した高級茶葉の物だ。

 1つくらい合っても困らないと言う理由で、少し高いが来客用に購入した。

 それが今、役に立つとは思わなかった。

『助かったじゃねーよ。オバサン』

 魔王がいきなり悪態付く。

「なっ、お姉さんだと、何度言えば分かるんですか?」

「しかも、知り合い……」

 ココは魔王とハクのやり取りを困りながら見る。

『齢200年超えた猫なんだから、化け猫オバサンだろう』

「それは、貴方とて同じでしょうオジサン」

『俺様はまだ123歳だ』

「胸を張って言う年齢ではないでしょう。甲斐性なし」

『五月蝿いオバサン!』

「割るわよ!」

『国のトップが逆上すんな!』

「あなたも国のトップでしょう!」

「あ、あのー。魔王さん」

『なんだよ』

「私からしたら、魔王さんも充分年長者だし、あまり、女性にオバサンはダメですよ」

「そうよ」

『五月蝿い。コイツだけだよ』

「なによ。差別しないでよ」

『店に呪いのアイテム持って入店して、俺様に解呪させた失礼な奴を区別してなにが悪い』

「酷い。今度、赤の王に燃やすように依頼するわ」

『ああ、悪かった。俺様が悪かったから、アイツを出すのだけは勘弁してくれ』

 最後はハクの脅しで、呆気なく痴話喧嘩は終わった。

「それでいいのよ」

 ハクは気分良くして、出されたクッキーを口にする。

「それにしても、なんで、呪いのアイテムを? あ、失礼しました。国家機密ですよね?」

「いいのよ。助けて貰って。美味しい紅茶とお菓子が食べられたから。この件に関するこの店と貴方の処遇は全て不問よ。事情を知る権利も当然あると思うしね」

 ハクは笑顔で答える。

「良かった」

 ココはホッとする。

『解呪した俺様も聞く権利は当然あるだろう!』

「まあ、そうね」

 ハクはあからさまに、不機嫌な態度を取る。

『あんたな。それで、理由はなんだよ』

「簡単よ。どんな呪いのアイテムか知りたかったのよ」

『クソみたいな。理由で俺様を巻き込ませるな!』

「クソは失礼ね。それに、たまたまよ」

『絶対、わざとだろう。知識欲の塊のあんたが、俺様がここで働いているなんて、知らない訳ないだろう!』

「ええ、知っているわよ。たまたま、呪いを解除できる道具屋が近くにあるのを知っていたから、堂々と呪いの効果を試すことができる」

『たまたまの意味知っているのか?』

「そもそも、なんで、魔王さんがいるの知っているんですか?」

『この女が、知識欲の塊で知らないことを、知りたがる性質だからだよ。お前さんの持っているコレクションも分かっているんじゃないのか?』

「そうなんですか!」

「まあ、大体は分かるわね。流石に店内に置いている物までは、まだ、把握してないけど」

「す、凄い。私もそんな記憶力欲しい」

『だから、化け猫なんだよ。大体、こんな呪いのアイテムより、もっと、知識欲を燻らせはることあるだろう。赤の王とかよ』

「そうそう。彼ね。ええ、私の知識欲を満たしてくれるいいお兄さんなのよね。ああ、また、刺激的な話しが聞きたいわ」

 ハクは興奮し、顔を赤くして鼻息を荒くする。

「刺激的って、怪しい話ですか?」

『怪しいは怪しいが、怪しいの方向性は、お前さんの思っている方向性じゃないから安心しろ。内容は健全だろうが、ここの世界の人間の次元の違う話しができるって話だ。オカルト寄りの怪しいだな』

「つまり、異世界人?」

『そうだ』

「そうなのよ。また、聞きたいわ別次元の話」

『ほらな。きっと、求婚もしようとしただろうよ』

「ええ、でも、絶対、私の欲を満たしてくれる人なのよね。すんなり断られたけど。他に好きな人いるからって。お兄さん。女性に対して見境ないようで、その実、とても、一途なのよね。その女性を消したいくらい」

『あんたは、飽きたら、捨てるだろうな』

「そうなったら、そこまでの人よ。でも、しばらくはないわ。だって、私より年上だから、年期が違うもの」

『そー言えば、お兄さんとか? 化け猫より年下だろう?』

「いいえ。赤の王は私よりも年上よ。正確な年齢は本人も分からないみたいで知らないけど」

『なんだ。アイツ化け物を豪語しているジジイだったか』

「ああ、でも、ジジイとか、オジサンはいくら温厚なあの人でも、禁句よ。脅す前に燃やされるわよ」

『マジか?』

「ええ、これはマジよ。魔王なんか、一発消し炭ね。これは、これで見たいけど」

『消し炭はゴメンだ!』

「じゃあ、口には気を付けてることね」

『そうだな。知識欲の権化のあんたの忠告を素直に聞くわ』

「それで、この呪いのアイテムはどんな効果があるんですか?」

「これはね。多分、真実の姿に戻るアイテムみたいね。猫になって、外れなくなって困ったわ。しかも、自我まで猫寄りになって、ここまで来るの大変だったのよ」

『知るか』

「ああ、でも、暇潰しにはなったわ。ココちゃん。これ、お詫びに上げる。アイテム収集が趣味なら、これも立派なアイテムよ」

「あ、いいんですか! ありがとうございます!!」

 ココは受け取る。

「それじゃ、私は帰るね。久しぶりに別世界の話が聞きたくなったから、このまま赤の国に行くわ」

『おう。さっさと帰れ。後、二度と厄介ごとを持ち込むな』

「それは、どうでしょう。また、呪いのアイテムがあったら、頼るわね」

『人の話を聞け!』

 ハクは猫のようにしなやかに、店を出た。


『全く、化け猫め』

 魔王はご機嫌斜めになっていた。

「女王から、素敵な贈り物貰っちゃった」

 逆にココは喜んでいる。

「あ、でも、呪いのアイテムなんだった。ど、どうしましょう!」

『お前、後先考えないで受け取るなよ』

「いや、でも、折角のご厚意でしたし」

『だからってよ。まあ、お前さんに効果ないだろうけどな』

「どうしてです?」

『化け猫が言っていただろう。真実の姿に戻るって』

「はい」

『お前さん。何かに変身している人間ではないだろう。だったら、真実に戻ることもないだろう。今の姿が真実な訳だし。だから、呪われないってことだ』

「なる程。あれ、それじゃ、ハク様って?」

『だから、俺様が最初から言っているだろう。化け猫だって』

「化け猫、もしかして……」

『そのままの意味だよ』

「それにしても、だとして、どうして、こんな呪いのアイテムがあるんですかね?」

『知らねーよ。それこそ、人間がなに考えているかなんか、俺様には分からないよ。だが、人を呪わばって言葉があるんだ。化け猫みたいな得体の知れない生き物に騙されて恨んだ人間が作ったんじゃないのか?』

「そっか、でも、人が作った呪いのアイテム。あまり、他の人に回してはダメですね」

 ココは貰ったアイテムを大事に保管することにした。

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