道具屋に通うお客様⑤-2

 店を出たセキと男2人は裏路地の人気のない場所にいた。

「お前のせいでな」

「ああ、悪かったって」

「差額分出せ!」

「ああ、残念。俺、そんなお金持ってないわ」

 セキはライターでタバコに火を点けて吸う。

「ふざけやがって」

 男の1人がセキを掴もうとしたが、セキは軽々と避ける。

「いや、でも、ココちゃん騙そうとしたのは事実だろう? それはいけないよな。しかも、手を出そうとしたし。それは紳士として黙っていられないんだよ」

「実力差があるのに無謀だな」

「そんなことないさ。それを埋める為に、助っ人を既に呼んでいるし」

 セキは丁度いい高さの樽を見つけ、腰を降ろす。

「セキさん」

 サイジョウがやって来る。肩にはスライムが乗っていた。

「おう、サイジョウ悪いな」

「悪いと思うなら、呼ばないで下さい」

「いいじゃないか、ココちゃんがピンチだったんだから」

「ココさんがピンチだから、駆け付けたんです」

「なら、文句言うなよ」

「それで、今日相手するのは、そこの2人ですか?」

「おう。そうだ」

「なんだ。コイツは」

「お前、国内じゃ有名人じゃないのか?」

「新人なんでしょう。実際、ココさんのお店で詐欺を働かせる輩ですから」

「そっか」

「おい、コイツは誰だって言っているんだよ」

「A級冒険者にして、青の国の騎士長」

「騎士長は元ですがね」

 サイジョウは苦笑いをする。

「って、ことは」

「ココちゃんの用心棒を連れて来たって訳だ。さて、大人しく捕まるなら、なにもしないが、どうする?」

「くそー!」

 男2人は走り出す。

「そんなA級冒険者と戦える訳ないだろう」

 捨て台詞を吐いて、逃げた。

「逃がすと思うのか?」

 セキは男2人の目の前に炎の壁を作り塞ぐ。

「このまま、野放しにして、別の店で詐欺を働かれると、それは困るんだ。ココちゃんの店の次ではないかもだが、赤の国でもやりそうだし」

「なにが悪い。伝説の盾を売るんだぞ。弱小国なら尚更だ」

「守備力5の盾なんざ。俺の国にもいらないよ。だったら、俺がもっといい防具を用意して、国民全員にばら蒔くさ」

「さっきから聞いていれば、さも、赤の国の国王みたいな感じで振る舞いやがって」

「これが、実際、国王なんだよ。俺。この国じゃ信じちゃくれなくとも、事実だよ」

「なに!」

「まあ、どっちにしても、この国じゃ俺の身分はFランク冒険者だ。手加減しても盾は壊れたんだ。話が広まれば俺よりお前らの行いを批判するだろうよ」

「ぐっ」

「さっ、大人しく捕まりな。サイジョウの剣の鞘が抜かれて、身体を切られる前にな」

 サイジョウはいつでも、攻撃できるよう構えていた。

 セキの言葉は脅してはないのが分かり、2人の男達は降参した。


 その後、セキは店に戻った。

「あ、セキさん。今日はありがとうございます」

「いやいや、困った時はお互い様だよ」

「でも、毎回助けて貰ってばかりで」

「気にしてないよ。ココちゃんだからね」

「それなら、いいのですが、それより、今日はどうしてお店に?」

「ん? お店に用事はなかったけど、店の近くを通った時、たまたま、アイツらを見かけてな。嫌な予感がしたから、様子を見てたんだ。まあ、なにも無かったら、ココちゃんに挨拶して帰る予定だったけど、勘が当たった訳だな」

 セキは笑みを見せる。

「さて、俺は帰るよ」

「はい。あ、そうそう。これからこの水晶玉が用心棒してくれるんです」

「コイツが?」

 セキは水晶玉を睨む。

「どんな条件でだ?」

「勿論、お金で、ちょっと出費ですが、いつまでもセキさんに頼るのもってところがありまして」

「へー。そうか」

 セキはもう一度、水晶玉を目を細め見る。

「まあ、だったら、大丈夫かもな。でも、コイツの言動には気を付けなきゃな」

「はい。そのつもりです」

「なら、大丈夫だな。じゃ、俺はこれで」

 セキは店を出た。

『ああ、生きた心地しなかった』

 セキの睨みに魔王はビビっていた。

「どうしたんですか? 随分大人しかったし」

『なんでもねーよ!』

「まるで、誰かに怯えているよーな」

『お前さんには関係ない』

「そうですね。でも、お金出すのですからには、約束は守って下さいね」

『当たり前だ! で、なければ……』

 魔王はセキの睨みに怯えるのだった。


 セキは店を出るとスライムが待っていた。

 先ほど、サイジョウの肩に乗っていたスライムと同じだ。

「なんだ。戻ってきたのかユウジ」

『どうせ、後で回収されるなら、戻った方がいいだろうが』

 ユウジと言う名のスライムは文句を言ってセキの肩に乗る。

「まあ、そうだな。それより、どうだった。エマちゃんの親友は、彼女もいい子だろう」

『まあ、類は友を呼ぶみたいだな。悪い子じゃないかも』

 ユウジはココの親友エマと最近仲良くなったスライム(?)だった。

「だろう」

 セキがココの店を通ったのは、ユウジがココを見たかったからだ。

 それで、巻き込まれた。

 ユウジはセキの指示で、サイジョウを呼びに行ったのだ。

『まあ、俺の容姿を見て受け入れるかは別だがな』

「そう言うなよ。彼女は毎日人に接しているんだ。そんなことで人を判断してたら、店はやっていけないよ」

『確かに』

「今後、仲良くなるかもしれないから、下調べとかしたいなんてな」

『まあ……』

「緊張しないように事前確認とか、真面目だな」

『五月蝿い。帰るぞ。そろそろ、トシさんが怒るぞ』

「トシが怒るのは大したこと無いんだがな」

『大したこと有りすぎだからな!』

 ユウジに言われ渋々、セキは赤の国に帰った。

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