九尾狐(不思議な話)
仕事帰り、最寄り駅で電車を降りた時に魔が差した。
――いつもと違う道を通って帰ろう。
何て事はない話だ。毎日朝早くから出勤、深夜の帰宅の繰り返しで気付けば会社と自宅の世界しか知らない、そんな単調な日々の暮らしに閉塞感を抱えていたのだろう、少しでも刺激が欲しかったのかもしれない。
普段から人通りの少ない道は、深夜はますます静まり返っており車も通らない。
道はやがて小学校の前にさしかかった。
昔は自分も通っていた小学校を前に懐かしくなって足を止め、校門の柵ごしに眺める。
丸い体育館の屋根の上を、何かが跳ねているのが見えた。目を細めて凝視すると、それは白い動物の様である。
白い動物は体育館屋根の上を夢中で跳ね回っていたが、ピタリと急に動きが止まった。
――やばい、見つかった。
視線を感じ、私はそう思った。急いで走り出し、人けの多い場所へ逃げ込もうと大通りを目指す。背後からものすごい速さで駆けてくる音がした。
――これではすぐに追いつかれてしまう。
私はふと思い立ち、ポケットから煙草を取り出すと口に咥えて火を点けた。
追いかけてきた動物はすぐ前まで来ていたが、途端に硬直しバタリと倒れて動かなくなった。
その動物は狐だった。ただの狐ではなく、尾が九尾あり毛は白い。九尾狐、魔物の類だろう。
九尾狐の体がぐにゃりとし始め、液体化し始めた。そしてあっという間にそこには真っ白な牛乳の様な水たまりができたのだ。
私は急いで24時間開いている100均ショップで適当な器を買うと、液体を中に入れ持ち帰った。
スプーンで掬って舐めると、それはスッキリと甘く非常に美味だ。少し分けて冷凍庫で凍らせてみると、他には何も入れていないのにとても美味しいアイスクリームができた。
私は持ち運びできる小型の冷凍庫を買い、アイスクリームを売り始めた。商品は飛ぶように売れ、口コミで客も増えた。私は仕事を辞め、アイス売りで生計を立てるようになった。白い液体はどういう訳か、減る事が無く永遠に器を満たし続けている。
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