壊すな
――困った事になった…
私はある工務店で働いているのだが、現在都市部を離れた山の中に、新たに建設される建物を任されている。
一階建てのひっそりとした小さな建物で、名前は忘れたが、有名な画家の記念館になるそうだ。
建物の中は床も壁も天井も、全てが黒で統一されている。
壁や天井、床もクロスで仕上げる事になっているのだが、玄関の三和土及びポーチは左官仕上げになる。
その左官仕上げになる三和土なのだが、墨を入れた黒のモルタルで仕上げる事に決まったと、そう思っていたら、豆粒大の黒い石を散りばめたものにしてほしいと、急遽変更を申し渡されたのである。
三和土は既に、依頼した左官業者が仕上げた後である。今更変更となれば、せっかく仕上げた三和土を斫らねばならない。
しかし、仕方がないのである。客がそうしてほしいと言うのであれば、そうせねばならない。
そのような訳で、私は業者の左官職人に訳を話したのだった。
幸い左官屋は、苦笑いしながらもあっさり承知した。ただし条件がついた。
斫る日は、他の業者がいない日にしたいとの事だった。監督も、建築士も来ないでほしいと言うのである。
大がかりになるため、誰もいない方がやりやすいとの事だった。
さて、左官屋が斫る日の前日、その日はたまたまどの業者も入る事ができなくなった。そしてまた、私も仕事に余裕があり、せっかくだからやり直す場所を斫りに行こう、と現場へ向かった。
斫り機をセットし、三和土の土間に突き立てる。スイッチを入れると、電動音と土間の砕ける轟音が鳴り響き、土間の表面が砕けて下地やメッシュが現れた。
メッシュを取り除くと、更に斫り機を下層へと突き立てる。
斫り機の先が、何か固い物に引っ掛かり、先へ進めなくなった。
石でも入れたのかな?と思いながら、斫り機に力を込めていくと
ベキッ
という、おおよそ石が砕けるのとは違う音が鳴った。
一体何なのだろうと思い、砕けた物を手に取って見てみると、白く薄いしかし非常に強固に見える破片だった。
胸騒ぎを感じ、更に深く掘ってみる。掘り終える頃には、体は汗まみれになっていた。しかし驚愕と恐怖で、疲労は全く感じない。
私はすぐに119番通報した。
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