鴨川
夏バテで体調を崩し、寝込んでいたのだが、少し休んだ事でようやく少し回復したような気がする。
時は夜10時。眠気は全く無かった。窓を開けると、心地良い夜風が頬を撫で、山の方からだろうか木の香りを感じた。
ふらりと外に出た私は、鴨川辺りへ向かった。いつもは大勢の人達が川沿いに並んで座っているものだが、この時間帯は誰もいない。静かなものである。
真っ黒に見える川の水から、涼しい風が吹いてきた。
人けの無い、暗い鴨川沿いはまるで別世界に見える。
私はしばらくの間、気分良くゆっくり歩いていた。
鴨川沿いに、ぽつんと人影が浮かび上がる。
おやと思い、歩を進め近づいていくと、人影も輪郭がはっきりとしてきた。
その人影は、釣り人であった。年齢、性別不詳だが、背格好から私は男と判断する。
その人は釣り糸を川に垂らし、静かに座っていた。
――鴨川で釣りとは、珍しい
「釣れますか?」
私は軽い気持ちで、声をかけた。
「たまぁに、ね。100回につき3、4てとこですよ。」
私は思わず首を傾げた。釣りに詳しくないから、分からないのだろうか?釣りの世界ではよくある言い表し方なのだろうか。
それにしても、釣り人の声は不思議なものだった。男の様にも女の様にも聞こえるし、若者の様でもあり、老人の様でもあった。こんな声音の人に出会ったのは、初めてである。
「へー…それにしても、何が釣れるんですか?」
「馬鹿な奴らが釣れますよ。」
釣り人は、嘲笑うようにそう言った。
私はなんだか嫌な感じだと思ったので、さっさとその場を立ち去った。少し歩いた所で振り返ると、変わらずポツンと釣り人の影がある。
散歩にも飽きてきた私は、家に戻る事にした。
さて、家に戻ったところで相変わらず、睡魔はやってこない。さりとて読み物をしたり、映像を見たりする気にもなれず、寝転がってスマートフォンを弄るという、眠れない夜におそらく最もやってはいけない事をし始めてしまった。
メールボックスを開けると、新着メールの中に「当選しました」という件名のものがあった。
はて、自分は何某か応募した事があったろうか?と思いながらクリックすると、そこにはあるリンク先が貼られており、そこをクリックするよう指示がある。
明らかに、怪しい犯罪組織からのメールである。私はそのメールをゴミ箱に捨てるのだが、その間今宵出会った釣り人を、彼ないし彼女の言った事を思い出していた。
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