週休一日の職場で働く私は休日の日、次の日が来てほしくなくて異世界への転生を試みる(異世界転生)

目覚めると朝六時だった。起き上がりたくなかったが、尿意に耐えられずトイレへ向かい、ついでに歯を磨いた。ねっとりした口の中が気持ち悪かったのだ。


歯を磨き、用をたしてスッキリしたが、依然として体も頭も重く疲れが取れていないのが分かる。

昨夜は十時くらいに就寝した。日々の疲労の蓄積から、次の日が休日の夜であっても夜更かしする気になれない。


祐里の職場は週休一日で、日曜日そして祝日のみが休日となる。

祐里はだいたい水曜日の朝くらいで疲労が限界に達しており、土曜になる頃には限界を超え息も絶え絶えである。

休日にどこかへ遊びに行くなど、就職してからは考えた事が無い。トイレのため寝床から立つ事すら億劫になるのだ。

休日は一日中惰眠を貪っており、夜辺りまでそうしていて、ようやく疲れが抜けたという感じだ。


―――――――――――――――――


再び寝床に戻った祐里は布団に包まりながら、今日一日で終わる安らぎを噛みしめていた。

明日からまた、疲労困憊した体を引きずる日々が始まる。そう思うと憂鬱だった。


―――異世界に転生して、人生をやり直したい。こんな世の中じゃ、希望なんて持てない。


祐里がスマートフォンにダウンロードして読んでいるのは、異世界転生モノの漫画だった。

主人公はトラックに引かれた事をきっかけに、平和な世界に転生してそこでのんびり生きている、という内容だ。


――でもこれだと、トラックの運転手に迷惑だよなあ…



――――――――――――――



気付くと、祐里は住んでいるマンションの玄関前に立っていた。


――私はこんな所で何を…しかもパジャマ姿じゃん!


正確な時間は分からないが遅い時刻なのだろう、辺りは暗い。


耳をつんざくような悲鳴が聞こえたので、振り返ると、帰宅して来たらしき若いカップルが突っ立っている。街灯とマンションの玄関からの灯りに照らされたその顔は恐怖に怯えており、硬直していた。


二人の視線の先は、祐里ではなかった。彼らの前にはうつ伏せの状態で、誰かが倒れている。

その人物は祐里と同じ、金髪に染めたショートヘア、そしてパジャマまで同じである。

いや、その人物は祐里自身であった。

途端に記憶が巻き戻る。異世界転生を夢見た祐里は、休日の夜転生を試みてマンションのベランダから飛び降りたのだ。


―――――――――


祐里はマンション前にある公園のブランコに乗りながら、救急車やパトカー、野次馬の姿を眺めていた。


――死ねば異世界へ行ける、なんて夢物語だったんだ。


普通に考えれば分かる様な事が、なぜあの時分からなかったのか祐里には分からない。

気配がしたのでそちらを向くと、骸骨の顔に黒いチャドルのような服装という、死神然とした者が立っていた。

どうやら、幽霊としてずっとこの世界にいられるわけではなかったらしい。


向かう先は天国か地獄か。考えてみれば、天国も地獄も異世界と呼べるのではないか。それならこれで、自分は異世界転生に成功したと言えるのだろうな。


祐里はそんな事を思ったが、胸躍るところは無く不安と後悔を抱えながら、とぼとぼ死神の後を付き従って行った。







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