トンネル(不思議な話)
トンネルを抜けるとそこは雪国だった。
いや、本当に雪国なのだ。おかしい、今は初夏である。私は京都に向かって高速道路を走っており、ここは既に京都府内のはずだった。今の季節を考えれば、北海道であっても雪国などではないはずだ。
当然、雪タイヤではないので道路わきに車を停めてグーグルマップを見たのだが、何と圏外だ。
自分は夢を見ているのだろうか、と頬をつねる気にもなれずにいたのだが、段々と体が冷えてきたのでエアコンを点けた。幸いガソリンは満タンだが、いつまで保つか分からない、このままでは凍死してしまう。そして寒さを感じるという事は夢ではないのだろう。
しばらくして体が温まってくると、外の様子を見る余裕が出てきたので車のドアを開けたのだが、雪の様子が何だかおかしいと感じた。自分の知っている雪ではない、と。
透き通るような白ではなく、乳白色のそれを口に入れてみると、バニラアイスだった。それもとびきり美味しい、濃厚なものだ。
ひょっとして、と思いアイスの雪を手で掘ってアスファルト上の砂利を食べると、チョコレートだ。ついでにアスファルトを腹ばいになって舐めるとビスケットを舐めたような感触がした。
――ここはお菓子の世界なんだ!
丁度降ろさずにいた雪タイヤに変えて高速を降りると、丁度良い駐車場がありそこに車を停めた。
上着を着て車から降りたのだが、そこではもうアイスの雪は降っておらず元の世界同様、新緑の季節である。
森林の中に入れる公園があったのでそこへ行くと、甘い匂いではなく清々しい初夏の香りがした。
葉を一枚ちぎって口に入れる。
――あれ?
もそもそとした固い葉っぱの食感、そして苦い。これは普通の葉だ。
では幹はどうだろう、と少し毟って食べたがガシガシとしておりこれも苦い、普通の木の幹だ。
グーグルマップを見ると圏外を抜けており、自分が滋賀の大津にある某公園にいる事が分かった。高速を抜けると同時にお菓子の世界からも出てしまったらしい。
私はタイヤを再び変えると高速に戻り京都を目指したのだが、お菓子の世界に行く事は叶わず無事京都に着いてしまった。
仕方がないのでネットで探した評判の良い甘味処でアイスを食べたが、やはりお菓子の世界で食べたアイスには敵わない気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます