地平 火を噴く大地と神武異聞

詩歩子

第1話 小夜

とある晩のことだった。


 夕闇も終わり、焚き火が燃えている城内でひとりの男が遠くの空を見ていた。


 闇は深まり、深々とする夜更けに男は深いため息をついた。


 幾年も国を平定すべく多くの者を葬るしかなかったことに男は胸を締め付けられる思いがした。


 もう、幾人の数多の命を闇から闇へと葬ったのだ。


 この大罪はそうは消えまい。


 その血の色は今でも脳裏にこびりついていた。


 もう、幼き頃のように無心になって人を信じられた頃は二度と来ないだろう。


 ふと思えば浮かんでくる。




 遥か故郷の炉端物語が。


 幼い己が村の長老にせがんで聞いた昔話のことを。


 今はそれを語ってくれるものもいない。


 あの頃からすればこの国で男に頭を下げない者はいない。


 まだ名もない国の幼子だった頃が己にもあったのだ、と思うと普段は皆に見せない弱さを人づてに言いたくもなった。


 夜はずっと深かった。


 遠くで梟が鳴いている。


 静寂が夜の鐘を打った。


 その音は静かに男の耳に響いた。


 夜に話す者もいない。


 孤独のみが話し相手だった。


 沈黙が声掛けだった。


 この心を何に例えれば良かろうか。


 さあ、それを知る者は己のみだ。


「磐余彦」


 物陰から従者のひとりである久米命が現れた。


「今宵は眠られないのですか」


 炎はゆらゆら、とかすかに揺れた。


「お前も変わったな。私も変わったように」


 久米命は頭を深く下げ、拝礼をした。


「幼少の頃とは事情が違うのです。私もあなた様も」


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