第16話 炉端物語


「いや、それも大地の摂理というもの。天地がこの世を見渡すための均衡を考えるとそうならざるえないときもあるのだ。ただ今すぐといことではない。だから、安心しなさい。ミケヌは心配症だからちょっと怖いんだね。私も子どもの頃にその話を塩筒の爺から聞いて夜も眠れなかったものだよ。ただこれ一度も山から炎が流れたこともないし、今まで通りの平穏な生活を送れていることだ」


 父上も怖がっていたことがあるんだ。ミケヌはそれを聞いて安心した。


「母上もそうだったんですか」


 タマヨリは長い髪を揺らしながら微笑んだ。


「そうですよ。私も幼い頃に夜になると眠れなかったものです」


 そうか。


 みんなが通る道なんだ。


 それじゃ、ミケイリ兄さんたちもそうだったんだろうか。


 ミケヌは気になって聞いてみた。


 何かいいことを思いついたのだ。



「ミケイリ兄さん! 怖かったの?」


 ミケイリ兄さんがちょうどお吸い物を飲んでいるときで何と具材を吐き出してしまっていた。


「あっ。ミケイリ兄さんが食べ物を吐いている。いけないんだ」


「ミケヌが急に言うからじゃないか。俺だって多少は怖かったけれどもミケヌほどじゃないよ」


「違うよ。それは」


 イナヒ兄さんが口を押えて笑った。


「ミケイリはその夜のお漏らしをしたんだ。さすがにミケヌはないよな」


 ミケイリ兄さんがそんな年齢でお漏らしなんてしたんだ。


 さすがにミケヌもおかしくてばれないように口を押えた。


 しかし、それも駄目だった。



「何を笑っているんだよ。そんなにおかしいことかよ」


 ミケイリ兄さんがこの上なく怒っている。


 それもそのはずだ。


 大事にしまっていた秘密がばれてしまったんだから。


「僕は漏らすことはないよ」


 それは火に油を注ぐ結果になった。


「黙れ! ミケヌは口が軽いんだよ!」


 まあまあ、とイツセ兄さんがなだめる。


 しかし、それも効果がなかったようだった。


「ちぇ。こんな話になるんじゃなかった。そういうイナヒ兄さんだって最近まで漏らしたことがあったじゃないか」


 ぎくりとイナヒ兄さんが目線を外した。


 ミケヌは顔を覗き込んだ。


「ほらほら、おチビさんも気になって仕方がないようだよ。なあ? ミケヌ?」


 ふたりの兄さんたちもお漏らしの癖があったんだ。


 強そうに見えるけれども色々とあったんだな、と今更ながら思う。


 その喧嘩を止めたのはウガヤだった。


「三人とも終わったことなのだからやめなさい」


 ミケヌは開いた口が塞がらなかった。


 だって、お漏らしなんだもの。


 いつも威張っている兄さんたちがそんなことがあったなんて笑いの種が飛び出してしょうがない。


 ミケヌがずっと笑っているものだからウガヤはまたもやたしなめた。


 それでも、口は震えたままだった。


 サヤも笑っている。


 そりゃあそうだ。


 とうとうイツセ兄さんはミケヌの元へ寄って大声で荒げた。


 ミケヌははい、はい、と言って謝った。


 宴も終わり、火も消えた。


 ミケヌはそのまま眠ってしまった。




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