第12話 沼


ミケヌは固く誓った。


それから、獲物はなかなか見つからなかった。


夕暮れになっても獣一匹も見当たらなかった。


山の隅から隅まで歩いてもなかなか見つからない。


ミケヌが必死になって探していると向こう側の岸辺に一匹の鹿がいた。


あそこだ。


御池の奥まで歩いてきたようだった。


ミケヌはミケイリ兄さんとイツセ兄さん、イナヒ兄さんを呼ぼうと戻ろうとした。


そのときだった。


ミケヌは底なし沼に落ちてしまった。



御池の岸辺にできた大きな沼だった。


足がつかない。


しかも物音に気付いて立ち去ってしまった。


いけない、せっかくの獲物が逃げられてしまった。


足がつかない。


それよりも身の安全を図ろうとミケヌは懸命に這い上がった。


どうしようか。


上へなかなか上がらない。



水が口に入る。


足をもがき、手を上へ持っていく。


さあ、上がれ。


さあ、上がるんだ。


力を全身に入れ込み、後ろから飛び上がった。


それでも、足はつかず、どんどん落ちていった。


もう、駄目だ、と思ったとき、キハチが縄を渡した。


ミケヌはその縄にすぐさましがみつき、災難から免れた。


水をたくさん飲んで地上へ上がったとき、水を吐いてしまった。


キハチが心配そうに声をかけた。



「大丈夫か。あと少しで水に飲まれるところだったぞ」


 キハチが見つけてくれてよかった。


 とんだ災難だったけれども不幸中の幸いだった。


「鹿がいたけれども逃げられたんだよ。大きな鹿だったのに」


 キハチがそんなミケヌに一喝した。


「何を言うんだい! 命も惜しくないのかよ! あと少しで御池の底の藻屑になってしまうところだったんだぞ。タマヨリさまだってお前が死んだら悲しむに決まっている。ウガヤさまだっておろおろして何日も寝込むぞ」


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