第7話 長老、炉端物語


赤い炎が揺れ動いた。


戦なのか。


あれは何だったのだろう。


空を飛ぶ戦舟だったのか。


ミケヌは震えて立てなかった。


あれは何だったのだろう。


 異国の使者だったのだろうか。


 何と言っているのかもそれさえもわからなかったけれども、とにかく恐ろしかった。


 目をつぶってから開けると御池にはその戦舟は跡形もなくなっていた。


 時々不可思議なものを見てしまうんだ。


 嫌なものを見てしまったかもしれない。


 ミケヌは吐き気を催しながら村へ帰った。


 何か良くないものを見てしまった。


 何か不吉な知らせかもしれない。


 塩筒の爺は村一番の長老だった。


 塩筒の爺はミケヌの外祖父に当たるオオヤマツミや若かりし頃の曽祖父のニニギ、祖父のホオリのことも知っており、一体いくつなのか、知っている人なんていなかった。


 日向の地形やどこで何が採れるのか、水はどこに湧くのか、みんな爺に聞けば知っている。


「ニニギの曽祖父上がサクヤの曽祖母上を疑った話。私の子じゃないって失礼な話だよな。本当に言ったのかよ。塩筒の爺、本当なのかい?」


 イツセ兄さんがまたの調子だ。


 いつも暇になるとこの話になるんだ。


 焚き木が揺れ、囲炉裏には影が出来ている。


「本当だよ。わしはこの眼で姫さまが産屋に火を放つところを見たんだから。あのときは本当によく燃えたわい。わしがまだミケヌくらいの年だったよ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る