第18話 花野
小さい声で「はーい」と返事をする。
サヤもクスッと笑った。
キハチは何がそんなにおかしいのか、ふたりを咎めた。
「もうあそこには行くな。前にも他の村の子どもが死んだことがあるんだ。お前たちに死んでもらったらみんな悲しむだろう? いいかい、もう、行くんじゃない」
キハチの忠告にミケヌは震えが止まらなかった。
それを先に行ってほしかった。さすがに死にたくはない。
それから、ミケヌとサヤは御池の向こうにある花野に向かった。
この時期にはたくさんの花が咲いていることだろう。
距離がかなりあったが昼前になると太陽も傾き、風も涼しくなっていた。
目の前には花野が広がっていた。霧島躑躅や岩鏡、敦盛草、一輪草、などの花々がぎっしりと生えていた。
その花の咲いている光景が虹の模様にも見えた。
地上に咲いているのは虹の群れだ。
それに対して空はどこまでも青かった。深い青だ。
花の色と空の色がこの上なく似合っていた。
山の緑も深く溶け込んでいた。
御池があんなに遠くに見える。
どうして、こんなに花が咲く何だろう。
この花は何だろう。
名前も知らないし、まだ名前もついていなかった花々だったけれども、それは美しかった。
山桜の名前は知っていたか。
あの白い花は草苺の花だ。
もう少ししたら苺の実がなるんだ。
「この花は菫ね。綺麗な花」
サヤが菫を摘んだ。
菫は薄紫色で三つの花びらがついていた。
サヤと菫の花がすごく似合っていてミケヌはドキッとした。
サヤに花はよく似合う。
花のお姫さまみたいだ。
ミケヌは顔が赤くならないか、気になった。
良かった。
ばれていない。
もう一度花野を見上げた。
どこまでも広がっている。
こんな美しい風景があるんだ。
こんな小さな存在でしかないんだ、とさえ思った。
空には白い雲が悠々と流れている。
和やかな時間が流れていく。
「サヤは」
ミケヌは目をつぶった。
「どうして、ここにいるんだと思う?」
サヤはしばらくの間、黙った。
目の前にある花野は決して裏切らない。
ずっとこんな日々が過ごせばいいんだ。
風の音がする。
その風も花を揺らし、通り過ぎていく。
「私がここにいる理由は」
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