第14話 伝承


ミケヌはその滝の下でもよく遊んでいた。


霧島の山から湧いた豊かな水の流れだ。


夏になるとよくこの滝の下でも寝ていたこともある。


さすがに今はしないけれども、幼いころから身近である滝なことには間違いなかった。


筒で息を吹きかけるとまだ米は炊いていなかった。


何度も息をかける。


この仕事はミケヌの仕事だった。


三人の兄さんたちは狩りに出たときは肉をさばいたり、干し肉を作ったり、火を起こしたり、たまには野草を罪に行ったりした。


今日は野草のお汁と干し肉と新米の飯だ。


すごくうまいだろうな。


ミケヌは炊きあがるお米の匂いに鼻が揺れたような気がした。


やっと炊きあがったときはもう、真っ暗になっていた。


焚き木をつけ、お椀に炊きたてのご飯を盛り、干し肉と野草ものせる。


塩筒の爺が腰を曲げながらお椀を持った。



「おやおや、ミケヌ坊。お前さんはいつも炊くのがうまいな」


 褒められて嬉しかった。


 これくらしか、できることはないけれども今はこれでいいと思う。


 アヒラの父が持ってくる魚の燻製もたまには食べてみたいけれどもやっぱり干し肉が一番おいしいと思う。丸く並んでみんなと夕飯を囲ったときもいつもと同じだった。


 母のタマヨリのとなりには父のウガヤ、そのとなりにはイツセ、イナヒ、ミケイリ、そして、仲間の久米と久米の父である登米、アヒラにアヒラの両親、キハチとサヤ、ぐるりと囲んで塩筒の爺、そして、タマヨリのとなりにはミケヌの順番だった。


 


 甘えん坊と言われても気にしなくていい。


 キハチには両親はすでにいなかった。


 なぜなら、キハチとサヤの両親はキハチが生まれた頃に流行り病で先立たれてしまったからだった。


 キハチは日向の地を行き来するミケヌの一族の天孫族に拾われて生きてきた。


 元々はずっと昔から日向の地に棲み付いていた山の民だというらしい。


 だから、ずっと古い伝承も知っている。


 キハチはこんなことを教えてくれた。


「御池は大地が裂けてできたんだぜ。霧島の山ができたばかりの頃に大地が吹っ飛んでできた穴に水が溜まってできたんだ。すげえよな。あんな大きな湖くらいの穴ならどれくらいの力が加わったんだろうな」


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