第9話 南洋の島、海
「そんなことはないわよ。ミケヌがそんなことをするわけがないわ」
アヒラの言う通りだった。
ミケヌがそう思うんだからやっぱりそうだ。
ただ毎晩見る不可思議な夢も今日見た空を飛ぶ戦舟も勘違いだといいんだけれども、とミケヌは怖くなった。
狂者になりたくはない。そこまで大袈裟に考えなくてもいいか。
「ミケヌ、昨日はどんな夢を見たのよ?」
ミケヌは話すかどうか、迷った。
「朝日を浴びている夢。銀色に輝く剣を持っているんだ」
アヒラはまたもや、プッと吹き出した。
「何でミケヌが剣なんか持っているのよ。全然似合わない」
ほら、言われてしまった。
こんな調子だ。
また笑われるのが落ちに決まっている。
実際ミケヌも目が覚めたときはそう思ったからだ。
剣なんてウガヤの父上が一本持っているだけだったし、こんな平和の村で必要になるときはそうはない。
戦になることもないだろう。
ささやかに暮らしていれば村での暮らしは安泰なんだ。
「それよりも久米兄さん、海のことを教えてよ」
話を変えようとミケヌも必死だった。
久米兄さんが航海から帰ってきたばかりでお土産をたくさん持ってきたからだ。
半年に一度久米兄さんは南の島まで行って交易に使う阿古屋貝やイモガイ、真珠を採ってくる。
日向の村からずっと下った南の島はその海がずっと青く澄んでいて海亀や色鮮やかな魚の群れや珊瑚礁がそれは綺麗だとか。 何度も聞いているのに飽きることはなかった。
ミケヌは一度も見たことがない海を想像した。
「潮風ってどんな感じなの? 久米兄さん」
久米兄さんは返事するのに困ったのか、塩筒の爺のようにうーん、と唸った。
「どんな感じって……。身体中に塩が纏わりついたような感じかな。匂いがまず違うよ」
こんな話を何度も繰り返すのだった。
ミケヌはそれで十分だった。
いつか、その南の島へ行ってみたい、と思った。
「ミケヌ、明日は狩りだぞ。だから、早く寝ろ」
イナヒ兄さんが口酸っぱく言った。
ミケヌははい、と言って横になった。
明日はどんな一日になるんだろう。
またあの夢を見るんだろうか。
ミケヌは瞼を閉じるとすぐに眠ってしまった。
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