第20話 北斗七星


「ミケヌ、お化けみたい!」


 ミケヌも同じように言った。


「サヤこそ、お化けみたいだよ?」


 夕暮れになりつつある。


 お日さまが傾き、御池の水面が黒くなりつつあった。


 静かに水面が揺れている。


 霧島の山の峰も黒くなっていく。


 こんな時間がずっと続ければいいのに、とミケヌは思った。


 それができないこともよくわかっている。


 こんな時間もあと少しだ。


 いいや、今日はそんなことは考えなくてもいい。


 


 水浴びを終えると村へ戻った。


 塩筒の爺がニコニコしながら待っていた。


 また今夜も長い話をするんだろう。


 サヤはクスッと笑った。


 ほら、サヤもそう思っているんだ。


 また長い話だな。


 いいか、塩筒の爺の話はたまにはためになることもあるんだ。



「おやおや。遊んだのかね。今夜は北斗七星の話をしようか」


 塩筒の爺は張り切っていた。


 こんなときになぜ、北斗七星の話なんだろう。



「北斗七星が毎晩見え、その季節でも位置が変わらないことはお前さんたちは知っているだろう。ほかの星々は季節であっても時間であっても日々変化するものだが北斗七星だけは変わらないのさ。なぜだと思う?」


 ミケヌは顔を傾げた。



「そうか、ミケヌ坊は知らないのか。それじゃ、海には行けないぞ」


 海に行くことと北斗七星がどんな関係にあるんだろう。


 ミケヌは久しぶりにムッとなった。



「航海を司る星と言われている。北斗七星が永久不滅なのは太古の昔、天帝が鎮座されたからと言われている。お前さんも天帝になれるかもしれないな」


 そんなわけはない。


 また塩筒の爺の例の話だ。


 塩筒の爺はいつもこの話にすり替える。



「北斗七星はその名の通り、永久不滅なんじゃ。ミケヌ坊、わしと今宵話したことも遠い記憶になることもあるかもしれないぞ。その時が来てもよく覚えておくといい。わしはお前さんはほかの者とは違う相があると思うんじゃ。お前さんは違う道を歩むんじゃよ。わしには想像もできないような」


 そうだろうか。


 そんなわけはないない、とミケヌはまた思った。


「この図案を見るがいい」


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