13

 真波は口を噤んだまま話をしない。取調室の栗本もさすがに辟易しはじめた。調書を取る為に隣にいた川崎が栗本の肩を軽く揉む。


「センパイ、代わりますよ」

「いや、大丈夫。てかお前、力強すぎだっての」

「すっ、すいません…」

「いや、怒ってないから」

「おい、クリ」


 取調室のドアを開けたのは山浦だ。首でこっちに来いと促す。


「どうしたんすか?」

「お迎えだよ。小菅さんだ」

「えっ?なんで」

「おれが呼んだんだよ」


 山浦は真波に言った。


「お父さんなんだろ?」

「……」

「まぁ、複雑な家庭事情かもしんねぇから、そこは何も言わないけどさ」

「……」

「一個聞こう。真波ちゃんは誰かをかばったりしていないよな?」

「はい」

「そうかい、ならいいや。帰っていいよ」

「ちょ、山浦センパイ」

「しゃあねぇだろ。それ以上聞いたって時間が過ぎるだけだよ」


 栗本はふぅと小さな溜息をついた。


「女性に優しいのもなんつか…」

「柳下さんからだよ」

「え?」

「あの人なりの、考えでもあんだろ」



 小菅は深々と柳下達に頭を下げた。隣にいる真波も目線を下に向けたまま頭を下げる。


「じゃ、これで」

「どうもすいませんでした」


 小菅に対する取調はすぐに終わった。柳下は首をこきっと鳴らして言った。


「とりあえず、犯人逮捕に協力戴く時があるかもしれませんから、その時は…」


 背を向けて行こうとする小菅と真波に、そうそうと柳下はまた声をかけた。


「あの、この数日の間でジャスミンは…」

「さぁ、うちでは取り扱っていませんから」

「ジャスミンの花言葉なんて…知りませんよね?」


 小菅は首を傾げた。川崎が何かを言おうとした時、真波が口を開いた。


「色欲」

「…え?」

「色欲、ですよ」

「なるほど、有難うございます。それじゃ」


 柳下は腕組みをして首を捻った。


「なら、犯人はあの事務所の内部にいるってことかな?」

「え?まさかあの…」

「可能性はあるな。しかしあの事務所には従業員がまだ二人残ってる」

「当たりますか」

「それしかないだろ。じゃまた夜叉ヶ池の事務所に行くぞ」

 

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