むすび

 相川は犯行を自供した。同期は妻の復讐。本来向くべき夜叉ヶ池八郎への矛先は、夜叉ヶ池が立案したマンション開発の関係者全てに向いた。夜叉ヶ池事務所を辞めたのも、そんな人間関係に嫌気が差したからである。そして退職後に発覚した夜叉ヶ池からの妻の凌辱…相川は復讐の鬼と化したのだ。


「そういや、柳下さん」

「ん?」


 栗本が言った。


「真波ちゃん、製菓の学校に行くみたいなんです」

「え?」

「あのカフェ、またやりたいんですって。若いから、チャレンジしたいんだって」

「母親の後を継ぐためかぁ、やるなぁ」

「小菅さんも、淋しくなりますね」


 柳下は頷く。


「たまに、顔出してやらないとな。それはそうと、こないだ飲みに行ったらしいじゃん」

「ふぇ?なんで知ってんすか!」


 山浦が栗本を見る、栗本はちろりと舌を出した。


「ま、まぁ…」

「悪いこっちゃねぇけどな。それより…」

「アイツですよね」


 川崎はぼけっとしている。目の前で山浦が手を叩く


「はぁっす!すっ、すいません!」

「すいませんで済むかアホ。ぼーっとすんなよ」

「はぁ」

「大丈夫。女の子は真波ちゃんだけじゃねぇから」

「で、ですよねぇ」

「お前みたいなキワモノも、需要はあるからな」

「うぅ、ひどいっす」

「そうだよ川崎。山浦センパイ見てみろよ。あんな可愛い彼女が…」

「あ、言ったなクリ」


 山浦は栗本にヘッドロックをかけた。その時、不意に後ろのドアが開く。そこには鼻がでかい男が一人。柳下の上司の西川だ。


「ご苦労様でした、柳下さん。また今回もさすがでしたね」

「そりゃどうも。俺の仕事をしただけですから」

「ほぉ、それよりどうです?花屋のシンちゃんて僕のネーミングセンス」

「最高でしたよ」

「だよねぇ、自分でも震えたもん。さぁて、これから記者会見でもやってきますかねぇ」


 と言うだけ言うと、西川は去っていった。


「あのくらいおめでたい人なら、苦労なんてないでしょうね…」

「違いねぇ…」

「じゃ、今夜は飲みにでも行こうか。川崎の奢りで」

「マジですか!」

「冗談だよ冗談!」


 柳下班の一日は終わる。4人は連れ立って薄暗く陰る空の下、街に向かって歩き始めた。

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戦慄!殺人鬼花屋のシンちゃん 回転饅頭 @kaiten-buns

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