6
いつにも増して緊張している柳下をパトカーから降ろす栗本。何度も柳下は栗本においクリ!おいクリ!と何度も呼んでは訊いている。
「ネクタイ曲がってないか?」
「大丈夫ですって!」
「大丈夫か?ポムポムプリンのネクタイのほうがよかったか?」
「絶対やめといたほうがいいですって!」
「ホントかよ!俺ってほら、可愛いで売ってんじゃん」
「柳下さんのどこが可愛いんですか!」
「わかってねぇなぁ」
「ほらほら、着きましたからね。降りましょ」
柳下はえへんと咳払いをして、夜叉ヶ池の事務所のドアを叩いた。
「はい」
「C市警の、柳下と栗本です」
「はぁ、どうぞ…」
覇気のない痩せた眼鏡だ。七三に分けたいかにも日本のサラリーマンを絵に描いたような男は名刺を差し出した。
「夜叉ヶ池先生の下で勉強させていただいてます。
「なるほど、二三お話を宜しいでしょうか?」
「はあ、私でよろしければ…」
目を泳がせながら八木沼は座った。
「八木沼さんは、こちらは長いんですか?」
「はい、会計を仰せつかっておりまして」
「ほう、会計を…ところでここは八木沼さん一人ですか?」
「いや、あと3人おりますが、秘書の
柳下が一番聞きたかったのはそれだろう。柳下は少しがっくりとしたような気がした。そしてネクタイに指をかける。
「夜叉ヶ池八郎さんを、恨んでいる方に心当たりとかは…」
「まぁ、あんな方ですからね。本人も慣れ切っているような感じがありましたから。でも、まさか…」
「夜叉ヶ池さんとは、行動は常に共に?」
「いや、それは私よりも秘書の斑鳩が…」
「斑鳩さん?」
「えぇ、女性の」
栗本は柳下の膝をぴしゃりと叩く。
「それじゃ八木沼さんは、夜叉ヶ池さんが亡くなった一昨日の8時ごろ、どちらに?」
「えぇ、こちらの事務所で残作業を」
「証明なさる方は?」
「生憎…」
食ってかかるような雰囲気もない。そもそもが気が弱いのだろう。あの夜叉ヶ池八郎には多分良いように使われていたに違いないなと柳下は踏んだ。
「ところで、八木沼さんはご結婚なさっておいでで?」
「えっ?」
「いやぁ、薬指に指輪が…」
「あぁ、まぁ…」
「いやぁすいませんね。にしても議員事務所の会計さんってのも忙しいんでしょうね。こんな時間を過ぎても…」
「はは…」
柳下は栗本の背中をぽんと叩いて立たせた。
「それじゃ、また何かありましたら」
柳下は大きな溜息をついて栗本に言う。
「肩透かしかよ」
「不順すぎますって柳下さん…」
「それより、あの八木沼って奴。何か隠してそうだと思うんだが、どうだ?」
「どうですかね。夜叉ヶ池に関わる人は何かしら知ってて隠してそうに見えますからね」
「やっぱそうだよなぁ」
柳下は助手席に座り、栗本に言う。
「ちょっと付き合えるか?お前」
「どしたんすか?」
「秘書の斑鳩、待とう」
「なんて執念…」
「アホか、純粋な仕事だっての」
柳下の眼光が鋭くなった。栗本が知ってる【体質】が発動した本気の柳下の眼だ。
「今のうちにちょっと、戦ってくる」
「柳下さん、コンビニは向こうですよ」
「おう、ちょっと待ってろ」
柳下はお腹を押さえてコンビニに駆け込んだ。
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