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 柳下はコンビニから日本の缶コーヒーを持って出て来た。ブラックのボトルタイプの缶コーヒーの蓋をきりりとひねると、横並びで座る。時刻は夕方の6時。辺りはやや薄暗い。

 ほどなくして、一台のタクシーが事務所近くに停まった。そこから8頭身はありそうな女性が降りて来た。柳下と栗本はその姿を見て、彼女が秘書だと踏む。二人は缶コーヒーをドリンクホルダーに置き、まだ停まっているタクシーに近寄る。


「ちょっとよろしいですか?」


 栗本は窓をコンコンと叩く。タクシー運転手は窓を開けこちらに落ち窪んだ目を向けた。中から洋楽の歌手の歌が聴こえる。運転手はオーディオを止めた。タクシー運転手は相川登というらしい。相川ははいと答える。


「さっきのお客さん、どちらから乗せられました?」

「あぁ、一応呼ばれたのは並木通り沿のイタリアンでしたね」

「一人?」

「いやぁ、そこまでは…」

「なるほど、忙しいとこ申し訳ありませんね」

「いやぁ、大丈夫です。刑事さんもご苦労様でした」


 相川は窓を閉じると、微かに笑顔を見せた。既に斑鳩は事務所に入っている。二人は事務所に向かう。


「おいクリ」

「はい?」

「俺、臭くねぇか?」

「だぁいじょうぶですから!」

「ネクタイ、曲がってないか?」

「だぁいじょうぶ!」


 柳下は夜叉ヶ池の事務所に再度足を向けた。事務所のゴムの木の脇には昼間会ったばかりの八木沼と、今帰って来たばかりの8頭身。肩まである髪を軽く左右に広げた髪型、小顔の美人だ。


「あ、ちょっと宜しいですか?」

「え?」

「あ、刑事さん」

「おぉ、八木沼さん。ありがとうございます。そうです。C市警の柳下と栗本です」

「あぁ、夜叉ヶ池の秘書の斑鳩です」


 名刺を受け取る。斑鳩カオリというのが彼女の名前だ。気の強そうなつっけんどんな感じで喋る。斑鳩はどっかとソファに腰掛ける。


「忙しいから、手短にお願いしますね」

「いやぁ、お時間はとらせませんから。斑鳩さんは、夜叉ヶ池さんとは…」

「世間様は愛人じゃないかとか仰ってるみたいですが、それはありませんから」

「いや、そういうことじゃ…」

「かれこれもう、10年くらいですね。ここでやらせて戴いてるのは」


 完全に彼女のペースだ。こちらを睨みつけるようにして話す。うんざりしているのだろう。次にする質問をまるで熟知しているかのように話す。


「それに、夜叉ヶ池先生が亡くなった時間、私はちょうどお休みを戴いておりましてね。友人とお食事をしておりましたの」

「ほう、それを…」

「先程のタクシー運転手にお聞きになれば?」

「同じ方に乗せて戴いたんですか?」

「ええ」


 もういいですか?とうんざりしたように斑鳩は下を向いた。仕事でも溜まっているのか、イライラしているのだろう。柳下と栗本は立ち上がった。滞在時間は20分満たない。


「きっつい女性ですね」

「美人は美人だが、ありゃちょっとな」

「確かに、美人…」

「すまん、クリ、今日はちょっとナイーブみたいだ」


 栗本は察した。


「何か変な物でも食べたんですか?」

「かもな。ちょっとまた、戦ってくる」

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