8

「ってな訳でですね。ここ最近グロキシニアを買ったお客さんは…とりあえずいませんっとのことです」

「あぁ、そう」


 柳下は川崎の報告を聞いて、軽く流すように言った。


「ほかに不審な点はなかったか?」

「いやっ、そうですねぇ……」


 川崎は頭を人差し指でぽりぽりとかいた。それを見て山浦は小さくふっと鼻で息をした。


「あれ?どした山浦」

「あ、いやいや」

「らしくねぇな」


 柳下は言った。あぁ〜と言うと山浦は何かを思い出すように目線を上に向けた。


「大したことじゃないんすよ。事件に関係してるかもちょっと微妙なんすけど」

「?」

「小菅生花店のバイトの女の子、ちょっと気になるんすよ」

「えぇっ、山浦さん!円さんがいながらっ!」

「アホか川崎。その気になるじゃねぇよ」

「あ、なるほどですね」


 山浦は柳下に報告した。


「それとなく、視野に入れても良いかと思うんすよ」

「なるほどな。そのバイトのコは名前は?」

「いやっ、そこまでは…LINEも聞いてないし」

「アホかお前は、だからモテねぇんだよ。フルネームは分かりませんが、真波ちゃんって言われていました」


 柳下と栗本はメモにさらさらとペンを走らせた。


「なるほどな、それなら少し頷けるな」

「何がですか?」

「グロキシニアの花は、ここ最近売れていない。とすると残る可能性とすれば…」

「と、すればですか?」

「その名の通り、花屋が犯人だって可能性だよ」


 栗本、山浦、川崎は目をまん丸にして柳下を見た。


「それなら、だいぶ絞られますね?」

「だろ?」


 そんな中、柳下班の事務所の電話が鳴り響く。山浦はすぐ手元にあった電話の受話器を取り上げ、耳にあてた。


「はい」


 山浦の声が少し低くなる。山浦はメモ紙をさっとかすめ取るとペンを走らせる。


「柳下さん」

「あ?」

「殺しです」

「あ?被害者は?」

「夜叉ヶ池の秘書。斑鳩カオリです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る