戦慄!殺人鬼花屋のシンちゃん

回転饅頭

はじまり

――だから、乗り気じゃないって言ったんだけどな

 人が足りないんだよ。俺がこんなに頼んでるんだからさぁ、なんて言われたら断ることはできない。どっちみち予定なんてなかった道雄は、幼馴染の友達、健太郎に頼まれて人数合わせの合コンに参加した。はっきり言って、話が上手くもなく、何の引き立て役にもなりはしないのに、こうして参加させられるのは結局道雄の見た目を弄ってネタにする健太郎の間接的な引き立て役…になってしまうからである。

 下戸な道雄はカルピスを飲みながら、小さくため息をついた。そんな時、隣に座っていた比較的地味目な女の子が道雄に声をかける。


「お酒、だめなんですね?」


 すると魚を見つけた猫のように飛びついてきたのは当の健太郎だ。はっきり言って大してイケメンではないが、話が上手く飽きさせないタイプ。


「こいつ、飲んだらタコみたいに真っ赤になっちゃうんだって!」

「え〜ウケるわ、道雄くん飲みなってぇ」

「いやぁ僕は…」


 盛り上がっているギャル風の女の子と健太郎に聞こえないように、小さく彼女は言った。


「外の空気でも、吸いに行きませんか?」

「え?そんな、僕は飲んでもいないし」

「あたしが、ちょっと吸いに行きたいんですよ」


 そう言うと、彼女は道雄の背中をぽんと叩いた。道雄は重い腰をのっそりと上げると、襖を開いてスリッパを突っ掛けた。



 道雄は外に出ると、裏手に回り建物の壁を背もたれにしてもたれかかった。夜風が涼しい。ほどなくして、彼女がやって来た。


「お待たせ」

「いやっ、あぁ」

「あたし、あんまり飲み会って好きじゃなくて」

「そうなんですか?」

「人数合わせで、エリカに頼まれたんです」

「僕も、そうなんです」

「やっぱり。そうでしたか」


 彼女はくすくすと笑った。なんだかたまらなく可愛い顔に見えた。道雄は声をかける。


「そういえば、お名前は」

「やだ、初めに自己紹介しましたよね?道雄さん」

「えっ、えぇ…」

「あはは、何だか可愛いですね」


 女子に可愛いなんて生まれて一度も言われた事のない道雄の胸は高鳴った。道雄はやや甲高くなった声で言った。


「こっ、この後予定でもっ……」


 目線をやや外した彼女から、耳を劈くような悲鳴が聞こえた。

 夜、10時の頃である。

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