19
「私が犯人だって、分かってたんですか?」
「まぁな」
柳下は拳銃のホルスターから拳銃を抜く。
「俺はアンタの仕事場に行って来たのさ。アンタは出勤してないと。無断欠勤なんて入社して10年くらいの間にはなかったとよ」
「…」
「仕事場の入り口の鉢に植っていたマツバギクの花がいくつかなくなっていた。そこで完全に確信に変わったよ。後戻りできない?まぁ、そうだろうな」
「…」
「だよな。タクシー運転手の相川さん」
相川は顔を強張らせた。
「アンタと初めて会った時だ。俺は違和感があったんだよ。斑鳩カオリを下ろしたあとだ。窓を開けたアンタのタクシーから、似つかわしくない洋楽の曲が流れて来てた。しかも割と喧しい奴。俺は思ったのさ、これは斑鳩カオリの事をちゃんと知ってる奴だろうなと」
「ほう…」
「そして、調べさせて貰ったよ。アンタの前職は夜叉ヶ池の秘書だった」
「…」
「勿論、斑鳩カオリと夜叉ヶ池八郎との関係はおろか、そこにいる八木沼の職務怠慢も知ってたんだろ?」
「コイツが適当な決算さえしなきゃ、俺の妻も、小菅さんの奥さんもあんな事にはならなかっただろうな」
「しかし、小菅さんのカミさんは病死だろ?アンタの奥さんのお姉さんは…」
「しかしうちの妻は自殺した」
八木沼がぼぉっとした顔で目を開く。
「あぁ、あ、相川…」
「目覚めたか。しゃあねぇ」
「動くな相川!」
「アンタにそっくりそのまま返そうか」
パクパクと口をぱくつかせる八木沼に相川は言った。
「俺にしてみりゃ、アンタも同罪さ」
「何で!私はただ、夜叉ヶ池に…」
「アンタがちゃんと仕事をしてりゃ、カフェをはじめとした、あの辺の店は潰されずに済んだ」
「しょうがないじゃないか!」
「それが原因で死んだうちの妻の事も、しょうがないで済ますのか?」
「何を言ってるんだ?」
「とぼけんなよ」
相川は八木沼の首にロープを巻き付ける。
「妻はあのマンション建設の話の会合の後、夜叉ヶ池の馬鹿息子に凌辱された。俺が知らないとでも思ったか?その後、妻は死んだ」
「私は関係ない!」
「俺にとっちゃお前らは皆同罪なんだよ!」
「相川!」
「来るな!」
血走った目で柳下を見る相川。
「川崎!」
「はいっ!」
川崎が部屋に入る。隣には一人の女性がいた。
「ま、真波ちゃん?」
「相川さん…もうやめましょうよ…」
「なんで?」
「斑鳩さんが死んだ時、あたし、あの場所にいました。相川さん、凄く怖い顔をしてました。きっと、夢だなって思ってたんです、あんなに優しい相川さんが…」
「…悪いな真波ちゃん、私は、そんなに…」
川崎は低めのポジションから相川にタックルを仕掛けた。合わせて栗本と山浦が八木沼のもとに駆け寄る。
「相川登!殺人容疑と殺人未遂の現行犯で逮捕する!」
「ナイスだ川崎!」
「アンタな…」
手錠がかけられた相川に、柳下は言った。
「理由はどうあれ、復讐なんかで自分の人生めちゃくちゃにするのはよくない。アンタがいなくなったら、困る人がごまんといるんだぜ」
相川は泣き崩れた。無理矢理相川を立たせ、山浦と栗本はパトカーに向かった。
「川崎、今日は噛んでないな」
「すっ、すいません…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます