10、失恋しても学校は登校します……

童貞男から童貞がマイナスになった日の朝……。

目が冷めると、既に昨日の出来事が遠いことのように思える。


「はぁ…………」


色々なことが起きた放課後だった。

告白、失恋、凹む、お持ち帰りされる、その妹からもお持ち帰りされる、童貞卒業。


体験した今、回想してみても色々とおかしなことばかりである。


あー……、今日は学校に行きたくねぇ……。

優香と顔を合わせるのも気まずいし、振られたあの子に会うのも気恥ずかしい。

それに最近はとある出来事があり、虐めのターゲットにされていることもあり色々な要因が合わさり学校に行きたくない度マックスである。


「むしろなんで俺、昨日告白したんだっけ……?」


そうやって昨日のことを振り返ると、1人の男が中心にいた。

──あいつに焚き付けられたんだったな!


「学校行くっきゃないか……」


食欲も沸かず、朝食として冷蔵庫からヨーグルトを取り出して腹に入れたりしながら準備をしていく。

いつも通りの朝が始まりを告げた。





─────






「よぉ、総一!昨日の告白はどうだったんだよぉ!」

「…………」

「え?なにその目……?」


なんと形容したら良いかわからない感情が込み上げて来た中、クラスで友達の男から話しかけられて自分でもよくわからない顔を浮かべていた。

怒り、悲しみ、戸惑い、喜び、困惑、苦しい、無。

彼に対して色々な思うところがあった。


「逆にどう見える?」

「おっ?推理マンガファンの俺に決闘を申し込むか?その感じ、童貞卒業したな!?」

「…………」

「したんだろ?したんだろ?」


推理マンガファンを自称した友達から真っ先に童貞卒業を言い当てられてしまい、より複雑で微妙な気分にさせられてしまう。

彼の中での俺は、告白成功からの童貞卒業という一本道で1番幸せなルートが展開されているのに気付く。

第3者とは、実に残酷な存在であろう。


「ウキウキしているところ悪いが振られたよ」

「な、なんだと!?総一、マジか……!?」

「雄二!このやろ、てめぇ!焚き付けやがって!」

「ふ、振られた怒りをこっちに向けるな馬鹿野郎!?焚き付けただけな俺は罪になるのか!?」

「ギルティだよ」

「ノットギルティ!ノットギルティ!実行犯が悪いよ!」

「うるせぇよ!詐欺師!ル●●がっ!」


つい最近、自分の手は下さずに若者に指示だけして金を盗ませる悪徳詐欺が流行っている。

まさに雄二の言い分は自分は高見の見物を決め込んだ詐欺グループの主犯に見えてきた。


「ル●●じゃない。雄二だよ」

「知ってるよ」


彼の名は加村雄二かむらゆうじ

クラスメートであり、俺とよくつるんでは色々遊ぶ奴である。

総一と雄二でナンバーコンビ……らしい(だっせぇ!)。


雄二はチャラくて軽い奴であり、なんやかんや話しやすい相手である。

お互いに焚き付け合う仲だが、若干俺の方が焚き付けられることが多い気がする。

今回も、彼に告白を焚き付けられたことがこの騒動の始まりといえる。


「ま、マジでぇ?総一に対して結構脈あったじゃん……」

「だよなぁ……。俺も手応えはあったんだよ……」


そもそも呼び出しに応じてくれた辺りで行ける自信はそこそこあったのだ。

まさかの彼女の性癖で逆転空振り三振で惨敗することになる。


「あの調子なら100パーセント行ける自信あったのになぁ」

「どんな判断や!好感度をドブに捨てる気か?」

「そんなキレるなよ……。俺なら行けた。お前は行けなかった。それだけの差だ」

「ムカつくなこいつ……」


加村雄二という男は、軽い男でありわりと簡単に恋人を作れる奴だ。

そんな経験があり野郎共から恋愛相談とかをよく受けるのだ。

因みに彼は作るのも早いが、別れるのも早いという結構ピーキーな恋愛相談相手である。


「しかし、あのそこそこありそうな好感度を持ちながら総一は振られた」

「なんだよ?」

「俺は高嶺総一という男を過大評価していたようだ。もうちょい過小評価するようにするよ」

「ドライだよなお前……」

「因みになんで振られたの?」

「筋肉がないって……」

「は?」


雄二の目が点になる。

俺も最初、そんな目になった。


「中肉中背はダメなんだと……。筋肉フェチ的には太さがないんだとよ……」

「えー?総一も結構ムキムキじゃ?」

「こらこら、お腹をさするな」


昨日の夜、優香に抱かれまくったところを野郎にすりすりされるのが気持ち悪い。

単純に不快な気分になる。


「なるほど。彼女は特殊性癖持ちだったと。学校の女リストを更新せざるを得ないじゃないか!総一の犠牲、無駄にせずに違う相談者へこの情報を届けよう」

「やめろ、やめろ。次の相談者をムキムキにさせて彼女へ告白させる算段を組み立てるのやめろ」

「振られたクセに独占欲つえー!?」

「むしろ次、彼女に告白したいって相談されたらその男をダイエットさせろよ」

「お前の方が詐欺師だよ」


しばらくは未練たらたらなのかもしれない。

付き合ってすらいなかったのだが、俺の屍を越えて彼女と恋人になる男の存在が現れるのは単純に胸クソ悪い……。


「因みに、次は誰を狙いますか?」

「え?早くない?失恋をもうちょっと引きづらせてよ……」

「焚き付けて告白失敗させた責任くらいは取ってやるよ!引きづるくらいなら違う恋愛して上書きしようぜ!」

「雄二……」


なんやかんや彼なりに元気を出せと背中を押しているのかもしれない。

そんな男だから俺は彼に恋愛相談をしているのかもしれない。


「ちなっ、因みに……桐原優香さんとかは?」

「無理。諦メロン」

「…………」

「彼女は男嫌いの筆頭。君よりもイケメンや優等生が次々玉砕してるの。そもそも失恋した相手の親友に手を出そうとするお前のデリカシーの無さどうなってんだよ」

「ご、ごめん……」


ボロクソだった……。

彼に恋愛相談するのは控えようと思わされる。


「そっかぁ……。総一が振られるのかぁ……。絶対気があったじゃん」

「わかったから……。お前が引きづるのはおかしいじゃん……」

「2人で食事まで行けたのにな……。お前、相当やらかしたんじゃ?」

「うるせぇな!もうやめようぜ、こんな傷口に塩塗るような話題!?」


ただ、第3者から見ても俺が振られるのは完全に予想外だったようだ。

学校着いたら彼女と会ってしまうだろうし、気まずいな……。

雄二と並びながら学校に向かう1歩1歩が重くなりつつあった。

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