5、名字から名前呼びイベント発生!

「今日のこと、お姉ちゃんには『高嶺君は家族に呼ばれちゃったから帰ったよ』って言っておいてあげるね」

「うん。ありがとう……」


もう、明日香さんと会うことはないだろう。

本来であれば、彼女からハンバーグカレーを作ってもらい、お風呂に入り、何人も抱いてきた身体で俺も抱かれていたのかもしれない。

そんなパラレルワールドにいる自分がちょっと羨ましい……。


「ごめんね、高嶺君……。わたしが高嶺君の童貞卒業を邪魔しちゃって……」

「あぁ、別に……。本当に童貞を卒業してたかもわからないし……。いや、童貞留年してたかもね!」


なんやかんや明日香さんとは何事もなく解散みたいな流れになっていた可能性もある。

俺のことだから、鯛を逃すくらい日常茶飯事だからな!


「童貞留年ってなんですか……?」

「ご、ごめん桐原さん……。忘れて……」


真顔で桐原さんに突っ込まれると、痛い奴感が出てしまい顔の体温が上昇していく。


「ふふふっ。高嶺君は面白い人ってわかってますから。格好良いと面白いを両立しているなんてチートですよ」

「そんなことはないけどね……」


俺みたいな凡人がチート呼ばわりされたら、街歩く人の8割がチートだらけである。

世も末である。


「こうして高嶺君の隣を歩けて、おしゃべり出来るなんて……。祈りが通じたんだわ」

「女の子だねー。やっぱり恋愛オカルトみたいなってするんだね」

「大好きですから!」

「へー」


消しゴムに好きな人の名前を書いて最後まで誰にも触らせずに使い切ったら恋愛成就というようなオカルトとか信じているのかな?と思うと大変可愛らしい。


「(毎日毎日高嶺君の席周辺をうろつき周り、落ちている髪の毛を拾って、神に捧げお祈りしている成果が出ました!最近では拾いすぎてピンポイントで高嶺君の髪の毛だってわかるようになったんですから!高嶺君の席周辺でなくても判別可能です!)」


そういう女の子なところ、萌えるなぁー。


「あ、そうだ!高嶺君!」

「ん?」

「せ、せっかく仲良くなれたんだし名前で呼びあおうよ!」

「な、名前!?」

「うふふっ。わたしがいつでもお姉ちゃんの変わりに抱かせてあげるから。その時、名字で呼びあうの変でしょ?」

「だ、抱かせてあげっっっ!?」


ぐ、グイグイ来る圧が凄い……。

有無を言わせない感じというのかな……。

そ、そもそも俺って桐原さんのこと好きなんだっけ……?

わからないことだらけだ……。


「だ、抱かせるとか簡単に言わないで……。自分の身体を大事にしよう?」

「簡単には言わないよ。総一君だから言うんだよ」


桐原さんの愛が重い……。

彼女のことが嫌いとかそういう意味ではないのだが、もうちょっとだけ考える時間が欲しい。


「き、きりは……」

「優香」

「きり」

「ゆ・う・か」

「…………優香さん」

「さんも要らないよ。優香、だよ」

「ゆ、優香……」


じょ、女子の名前を呼び捨てにするのもなんか気恥ずかしい。

敬称がないと妙にソワソワする。


「でも、総一君がわたしの友達が好きだったことわかってるから」

「っ!?」

「でも振られたんだよね……?」

「知ってたんだね……」

「うん……。さっき総一君に告白されたってあの子から連絡もらったから。だから落ち込まないで欲しいの……」


優香が俺に抱き付いてくる。

失恋した俺に彼女のぬくもりがすーっと染み込んでいく。


「ビッチなお姉ちゃんに逃げないで……。わたしはずっとずっとずっと……、総一君に一途なんだから……」

「あ、ありがとう……」


失恋したあの子の親友と、新しい恋愛をしても良いのかな……?

そんなことが頭をよぎった。


「別に今すぐでなくても、ゆっくりゆっくりわたしのことを見て欲しいな……」

「うん……」


それから優香とは地味な距離感を保ちつつ歩く。

俺は簡単に失恋を乗り越えることが出来るのかな……?

重たい足を動かしながら帰路に着く。


「あ、ここが俺の家だから……」


というか、最後まで優香が俺の住みかにまで足を運んできていた。

あれ?

買い物ついでの用事があると言っていたから途中で別れるものと思っていたのにまさかここまで来てしまったとは……。


「アパートだね……。1人暮らし?」

「うん……。すぐそこに実家あるんだけどね……。まぁ、早めに自立する目的で1人暮らししているんだ」

「ふぅぅぅん」


じろじろと興味深そうにアパートを注視している。

そんなに1人暮らしのアパートなんか珍しいものかね?


「部屋は1階?」など、興味津々なのか5個ほどの質問責めに合う。

優香も1人暮らしに憧れあるのかも。

そんな事情が読み取れてしまう。


「じゃあ、またね優香」

「ちょっと待って総一君」

「え?」

「中、入りたいなぁ」

「え?え?な、なんで?」


このまま解散の流れだとばかり思っていたので、彼女の提案にドキッとした。

あんなに素晴らしい立地条件の桐原姉妹の住むマンションに入ったら、俺の住む格安おんボロアパートを紹介するのは凄い抵抗がある。


「総一君、わたしが知らない間に家に来たよね?めちゃくちゃビックリしたなぁ……。だって見知った顔があったんだし」

「わかった、わかったよ!行こう!」

「ありがとう!」


明日香さんに連れられたとはいえ、勝手に優香のマンションに入ったのも事実。

俺が家に上げてプラマイゼロになるなら、彼女をアパートに入れてしまおう。

古くてすぐに帰りたがる可能性もゼロじゃないしね。

こうして、唐突に優香をアパートの部屋に入れることになる。


「…………」


このとき、優香の顔が妖艶な表情を浮かべていたことに俺は気付いていなかったのであった……。

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