25、明日香に連れられた先

明日香さんの隣に並ぶようにして歩く。

「んふふー」と彼女は俺に向けて微笑んでいる。


「場所の健闘とか付いてるー?」

「え?全然わかんないです……。方向的にはボーリング場とかゲームセンター、どら焼き専門店とかミャクドナルドとかありますよね」

「全部違いまーす!」

「ぜ、全然わかりません……」

「簡単だと思うけどなー」


小悪魔的にからかいながら呟く。

それからドンドンと駅を離れて行くと、俺が予想していたボーリング場やゲームセンターなども素通りして遠ざかっていく。

本気でどこだろう?と、疑問に刈られるまま10分ほど歩いた時だった。


「じゃじゃーん!ここ、1ヶ月前くらいに出来たばっかりのカラオケ店だよ!」

「うわっ!?し、知らなかった!?カラオケ出来てたんすか、ここ!?」

「遊び行く場としてカラオケなんて王道じゃん!」

「ここにカラオケ店が出来たこと自体知らなかったんすよ……」


確かに知らない土地だったらカラオケ店という予想は簡単に出来ていただろう。

しかし、下手に地理が頭に入っている土地でのどこに向かっているでしょうクイズは情報を更新しないと簡単にワナに引っ掛かってしまうのであった……。


そういえば最近、ずっとここに来てなかったっけな……。

そりゃあ、店の配置とか変わるよね……。

感心と悔しさの両方が混ざり合い、複雑である。


そんな俺の反応を楽しそうにしながら明日香さんはクスクスと笑っていた。

気持ち良く騙されたものである。


「さあさあ!いつまでもショック受けてないで行こうよ総一君!」

「べ、別にショックを受けていたわけじゃないですよ!?ほ、ほ、放心してただけですから!?」

「それは一緒じゃないの……?」


でも、純粋にカラオケは楽しみである。

それこそ前にカラオケに来たのなんかそれこそまだ高校2年に進級する前なので、半年以上ぶりになるかもしれない。

メンバーは、雄二を含めた野郎4人程度で来ただけだ。

女性とカラオケに来た体験なんてそれこそはじめてである。

当然、優香と来たことすらない。


「あ、でも明日香さん。無理っぽくないですか……?すでに10人近く人が待ってるみたいです」


受付付近に設置されたベンチにて数人が座り占領された挙げ句、4人程度は立ちながら待っている。

おそらく3組は待たなくてはならない。


タイミングが悪いと1時間以上待つかもしれない。

おじさんと会うこともなければ、もう少し早く着くことが出来たのに……。


「え?大丈夫だよ」

「え?そうなの?」

「すいませーん!アプリで予約していた桐原ですけど!」

「…………」


そっか、アプリ予約という手段があったか……。

「お待ちしておりました」と声をかけられて、店員さんとやり取りしていく明日香さん。

確かにカラオケ行くなら懸命なやり方である。


「ほら、行こっ総一君」

「あ、ありがとうございます。あっ、荷物持ちますよ」


マイクや伝票が入ったカゴを受け取り、ドリンクバーのコップだけを明日香さんに手渡す。

「優しいね。こちらこそ、ありがとー!」と、褒められては悪い気はしない。


じろじろと視線が集まっている気がした。

既に10分以上は待っているであろう待っていたお客さんたちに嫌な顔をされながら、部屋のある方向へと歩いていく。

予約しなかった彼らの怨念が背中にひしひし突き刺さる。


「ドリンクバーはウーロン茶で良いかな?」

「そうですね。ウーロン茶にしましょう」


本当はゼロコーラとか飲みたかったが、後からにしよう。

飲み放題だし、いくらでも機会はあるはずだ。

明日香さんが2つのコップに氷とウーロン茶を入れていく。


「部屋は……。こっちの方向みたいですよ」


矢印の方向に向かうと、ドアの開いた部屋を見付ける。

部屋番号も確認し、そのまま部屋へ入っていく。

部屋の明かりも付けて俺は奥側へ、明日香さんに部屋の出入口付近のソファーに座らせた。


「いつ予約してたんですか?」

「総一君と会う約束してから。だから1時間近く前かな」

「あの時からもう予約してたんですね……」

「本当はカラオケ前に色々ゆっくりしたかったけど、イレギュラーが発生していきなりカラオケからになっちゃったね」


おじさんとの遭遇があったからな……。

あの人は明日香さんとそういう関係なのか……?


「…………」


いや、忘れよう。

明日香さんに片方のマイクを渡しながら、考えないことにしたのであった。

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