24、見失わないでね
そのままちょくちょくと小声で会話をしながら、電車に揺られていた。
情けないながら、明日香さんは話を振ることが多くて話題には困らなかった。
ただ、明日香さんにリードされっぱなしなので情けなくもあった……。
電車に乗ってから4駅目を出発すると、彼女が「来た来た」と言いながら俺の服をくいくいっと引っ張る。
「なんですか、明日香さん?」
「次の駅で降りましょ。準備しといてね」
「わかりました」
やっぱりこの辺で降りるのか。
俺の予想していた場所で降りる連絡をもらい、メロンのカードをポケットから取り出した。
この土地は繁華街であり、ゲームセンターやデパートなど色々な施設もあるので子供から大人まで楽しめるという人気スポットである。
ここで降りて遊びたいなーとちょっと期待していただけに、俺の願いが明日香さんに届いていた気がしてテンションが上がった。
最近はずっと家に引きこもりっぱなしだったし、楽しみたい気持ちが俄然高まる。
俺たち以外にも降りる人は多いらしく、椅子に座っていた人がバッグの準備をしていたりするのが視界に入った。
「楽しみだなーっ!」
身体をぐぐーっと伸ばしながら、嬉しそうに微笑む明日香さん。
俺なんかと遊ぶのを楽しみにしていたなんて自惚れてしまうと悪い気はしなかった……。
俺がこんなにドギマギしているのにまったく気づかずに、そんな風に俺を喜ばすようなセリフをナチュラルに出すのだから、この人は小悪魔的な人なのかもしれない……。
うぅ……、男を操ることに関してのテクニックを持ちすぎだろ……。
電車が駅に止まるまで、このときめきは続く。
やたら長く感じた電車時間も終えて、2人して電車を降りて行く。
俺ら以外も降りる人たちが多く、前にも後ろにも人が大勢で溢れかえる。
「総一君!はぐれないように私を見失わないでね!」
「わ、わかっています……。人波に飲まれても明日香さんをずっと見てますから!」
「そ、そう……。あ、ありがとう……」
「…………ん?」
なんのお礼だろうか?
なにかお礼を言われることがあったかはわからないが、とりあえずは明日香さんと一定の距離を保ちつつ電車から降りることが出来た。
駅のホームを抜けて、明日香さんは定期を、俺はメロンのカードで改札を抜けた。
「やっぱり混んでるねー」
「これが週末パワーですよ」
「えー?なにそれ総一君!?」
「聞いたことないですか?週末パワー?」
「ないよー」
おかしいとばかりに口元を抑えてクスクスと笑っていた。
雄二やクラスの野郎共には大体ニュアンスで伝わるのだが、この辺りの感性が少し違うようだ……。
この辺が生まれ育った環境だたり、人間の交遊関係などの差が出てくるところなのかもしれない。
「さっきは駅見たから外行こうよ!」とややはしゃぎ気味の明日香さんに従って一直線に駅の建物を抜け出した。
「ふーっ!外は気持ち良いねー!」
「同感です。電車内は空気悪いですからね……」
「息苦しいもんねー。んーっ!良い天気!」
「良い天気ですが、すでに夕方ですよ……」
「べ、別に良いでしょ!昼間は私も大学の授業あったんだから!」
恥ずかしそうに顔を赤くしながら可愛い抗議をしてくる明日香さんに、心でニヤニヤしながらも、口では「すいません……」と謝罪していた。
「まったくもー!」とプリプリとしたプチ怒りの声もまた可愛らしい。
微妙に拗ねてしまったようだ。
今こそ、俺から話を振って話題を変えた方が良いと判断する。
「そ、そ、それよりもどこに行くか決まってあるんですか明日香さん?」
「あ、そうだったね。行きたい場所はもう決まっているんだ」
「もちろんどこなのかは……」
「ひみつー」
「ですよねー」
左右の人差し指で罰マークを作る。
それからくるっと向きながら「こっちだよー」と明日香さんが歩き出す。
突然彼女が歩きだすから、俺も慌てて歩きだす。
「ま、待ってくださいよー!?」
こうして、明日香さんの行きたいところの予想が付かないまま繁華街の中を歩きまわることになるのであった……。
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