23、デート童貞

「そうだねー……。どうしよっかー」


「んー……」と頬に右手の人差し指を添えながら考え込む明日香さん。

そんな仕草だけでドキドキしてしまうのだから、男はチョロい。

可愛い女の子に声を掛けたくなるおじさんの気持ちはよくわかる。


「とりあえず電車に乗りますか?」

「あっ!電車に乗りたいのは山々だけどまだおじさんがいるかもしれない。10分くらい時間ズラそう……」

「そうだね……」


そういえば駅におじさんが入って行ったばかりなのを思い出す。

しゃーない、しゃーない。


「とりあえず駅の中歩こう」

「はい!」


明日香さんに駅へ連れられて、ブラブラと歩く。

夕方の時間で学生やサラリーマンなど色々な人が動きまわっている。


「いつも大学の行き来で駅に来るんだけど、総一君と一緒だと新鮮だなぁ」

「そうですね。俺も男友達とはよく電車に乗って遊び行ったりはあるけど女性と駅に来たのははじめてで新鮮です」

「ふふっ。女の子とデート童貞卒業だね!」

「で、デート童貞……」

「あっ!照れてる!可愛いんだっ!」

「っ……!?」


俺はちょっと気軽に遊びに来ただけなのだが、これはデートなのか!?

男と女の友情は成立する側の考えなので、これがそもそもデートという自覚が無かっただけにこそばゆい気持ちでいっぱいになる。

優香とはそういった過程をすっ飛ばしての肉体関係なので、色々とこなすべき順番がぐちゃぐちゃのような気がする。


「いつもは電車に乗るしか駅に用事ないからこうやってゆっくり歩くの楽しいね」

「そうですね。いろんなお土産とか出店見るの楽しいですね。お祭りに来た気分です」

「そこにあるベアードパパのシュークリームとか大好きなんだよね。あー、ちょっと気になっちゃう」

「俺もベアードパパのシュークリーム大好きです」

「美味しいもんねー!総一君は甘いの好き?」

「甘いの大好きです!」


特にお互い買い物しないで駅内をウインドウショッピングのように歩きまわる。

何気ない会話をしているだけで、なんとなく落ち着く。

……俺、桐原姉妹に惹かれやすいのかも……。

優香といる時と同じような安心感が彼女から伝わる。


だからこそこの暖かさがあのおじさんを含め、複数人も経験しているかも……と思うと複雑な気分である。

明日香さんは初対面の時から結構童貞という言葉を使うことが多いので、なおさら複数人と関係を持っている疑惑が強くなる。


「10分ほどのつもりが20分近く経ってたよー」

「さすがにおじさんは会社に戻りましたよね」


電車も1、2本通ったと思われる。

彼の会社が上り電車か下り電車のどちらの方向にあるかはわからないが、どちらかには乗っただろう。


「じゃあどこか行こうか」

「はい」

「総一君はキップ買う?」

「俺はメロンあるので大丈夫です」

「そっか。私は定期あるからすぐ改札行けるね」


ピッ、ピッと2人しか改札を抜ける。


「よし。じゃあ、上り電車のホーム行くよ」

「わかりました」


大体そうだろうなとは察していた。

上りが繁華街で、下りは住宅街。

遊ぶなら上り電車になると予想は付いていた。

それからホームに行き、10分弱ほどの時間を待ち電車へと乗り込んで行く。


それから椅子には座れそうにないくらいには混んでいる電車に乗り込む。


「やっぱり週末前は混んでるよねー」

「今日が1番夜更かししてもノーダメージな日ですからね」

「ふふっ。間違いないね!」


小声でこそこそと雑談する。

満員というほど混んでいるわけではないものの、大声を出したら迷惑をかける程度には人がたくさん居た。


「どこ駅で降りるとか決めてないですけど、今2人で決めちゃいますか?」


ちなみに勢いでここに来たので、予定という予定をまったく立てないで電車に踏み込んだので今さらになって『そういえばどうするんだろう?』となってしまう。

見切り発射とはこういうことである。

駅で歩いている時になにか話し合うべきだったな……。


「あ、そこは大丈夫!私が誘った側なんだから総一君はお客様気分でOKよ!」

「そうなんですか……?」

「うん!大丈夫、だいじょーぶ」


明日香さんが背中を優しく3度ほど叩いた時だった。

身体がぐらっと揺れる。

車内アナウンスをまったく聞いていなかったが、どうやら出発の時間になったようだ。

窓の景色がゆっくりと進んでいく。


「なん駅行くんですか?」

「ひみつー!」

「はぁい」


大体なん駅行くんだろうかという予想は付いているが、そうやって焦らしていく明日香さん。


「今日は全部私におんぶに抱っこで任せなさい!」

「OKです」


まるで今日以外もあるような口振りだ。

な、無いよな……?

彼女なのかは微妙なラインであるが肉体関係のある優香の姉と一緒に出かけるというだけで良心が痛む思いをしているだけに、次があるのかな?と悩ませてしまう。


「…………」

「へへぇ……。楽しみだね総一君」

「はい。そうですね……」


そうやって優香の笑顔と重なるような微笑みを向けてくる明日香さん。

どことなく姉妹で面影がある。

電車に揺れながら、様々な緊張が胸を襲っていた。

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