26、近い女の子の匂い

「どんな歌、うたおっかなー」


ルンルン気分の明日香さんはタッチパネル式のタブレットを持ちながら、曲の選曲に務めていた。

そういう女の子の仕草を眺めているだけで、ちょっと心でニヤニヤしてしまう。


雄二や野郎がそういう仕草をしているとムカつくくらいなのに、明日香さんがすると絵になる不思議。


「あ、総一君暇になっちゃうか」

「す、スマホで音楽何歌うか探しているんで、音楽入れる時だけタブレット貸してください」

「んー……。なんか悪いよねー、それ」

「そうですか?」

「んー……」


ちゅぅぅぅぅぅ、とウーロン茶をストローですすっていく明日香さん。

一気に3分1ほどのウーロン茶を飲み込むと、「よし!」と言って立ち上がる。


「一緒にタブレット見よっか」

「えっ!?」


わざわざ向かい合っていた位置にあったソファーから立ち上がって、俺の真横に来る。

一気に女の子の甘いシャンプーの匂いと、ちょっとほのかなローズ系?の匂いが混ざっていて、近付かれた自覚が強くなり頭がクラクラしそうになる。


嫌いな女である川島千晶がどんな匂いを身に付けていようが、一切合切ドキドキもしなければクラクラもしない。


そ、それだけ俺は明日香さんに惹かれているのか……?


それに、優香と同じシャンプーの気がしてそれが彼女からストップを掛けられているような気がする。

『ビッチのお姉ちゃんに負けないで!』と、何故か脳内優香がそのシャンプーの匂いで阻止している気がする。


「…………」


いつの間に、俺の頭の中にイマジナリー優香が召喚されたのだろうか……?

彼女に操を立てている現れなのかな……?


「どうしたの総一君?」

「ヴェッ、マリモ!」

「大丈夫?」

「ご、ごめんなさい……。大丈夫です……」


テンパって変な滑舌になってしまって恥ずかしい……。

「ふふっ、耳が赤くなってる」とまたクスクス笑われてしまう。


明日香さんは俺を手のひらの上で転がすのがとても上手な人のようだ。


「ほら、これなら2人で見れるね」


髪をかきあげながら、俺の前にテーブルに置いたタブレットの画面を突き付けてくる。

ふわっと舞った髪がより強く甘い匂いへと変換されていき、彼女が女だという意識を強めていく。


「ほらほら遠慮しないで。画面に近付いてネ」

「は、はい」


タブレットのトップ画面を見せてくる。


「どんな曲あるんですかね?」

「いっぱいあるよー」

「そりゃあ、そうですが……」


俺の質問した内容も意味不明だったと考えを改める。

カラオケの機種にとって洋楽しかないとか、ジャズしかない、アニソンしかないとかそんなわけがないのだ……。


「総一君はどんなアーティスト好き?」

「え、えーっと……」


アニソンとかゲームソングが好きですとか素直に言いそうになるのをぐっと堪えた。

明日香さんがそういうのに偏見が無ければ良いのだが、わからないものだ。

今でこそ、アニメとか声優とか大好きな人が芸能人にも多いので許されつつあるが、やはりまだオタクに偏見を持つ人は多い。


ここは無難なアーティストでかつ、トレンドな音楽を挙げようと、頭をフル回転させる。


「ひ、ヒゲダァンとかですかね?」

「あー!良いね、オフィシャルヒゲダァンディーズだね!今人気だよねー。私も好き」

「お?じゃあ音楽の趣味合うかもね」

「そうだねー」


ヒゲダァンの曲、3つくらいしか歌えないけど意外と好感触である。

とりあえずは無難な印象くらいは抱かせただろうか。


「ヒゲダァンなら、私はこの曲好き!これ、リクエスト!歌って、歌って!出来る?」

「えっとー。あ、これね。いけるいける」


奇跡的に歌える3つの内の1つをチョイスしてくれた明日香さん。

ありがたいと思いながら、タブレットを操作した明日香さんはヒゲダァンの音楽を1曲入れ始めた。


「あ、あー」とわざとらしく声の発声練習をして見せると、前奏が鳴りはじめた。

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失恋に泣いていたらビッチ女にお持ち帰りされたのですが、何故かビッチのヤンデレ妹から誘惑されてしまった件 桜祭 @sakuramaturi

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