14、昨日妹と会いました?

「2日連続で会うなんて偶然ですね」

「そうだねー」


明日香さんと会ったことで、心臓がバクンバクンと鼓動が鳴る。

心臓の音だけで動揺がバレないかと不安になるほどに、衝撃が強い再会になったのだ。

「あはははー」と、無邪気に笑って見せる明日香さんが眩しい。


本当に輝いているのは優香と似ていて、姉妹だよなぁと考えさせられる。

そりゃあ、色々な男がほっとかないよな……。

俺みたいな普通な奴が、明日香さんの特別な人になれるわけがないのだ。


「昨日は家族に呼ばれたみたいだったけど大丈夫だった?」

「はい。ありがとうございます……。たいしたことはなかったです。ほんのささいな用事でしたから……。ちょっと軽く実家に立ち寄っただけで済みましたよ」

「そっか。家族に不幸とかなくて私、安心したよ。良かった、良かった」

「……………………」


優香の言い訳を思い出す。

『高嶺君の家族さんから呼び出されてすぐ帰った、という風にしておきなよ』なんて言われたので一応口裏を合わせておく。

騙す罪悪感もあり、イマイチ歯切れが悪くなってしまう。

それが悟られないかと不安がよぎる。

明日香さんが俺の言葉を信じて心配そうな目を向けるほどにこちらは心が萎縮する。

普段から嘘が不得意なので、詐欺師のメンタルはどうなっているのかと尊敬と畏怖の念を抱かざるを得ない。


「本当に突然のことで心配おかけしました」

「いやいや。家族のことを大事にされていて素敵ですよ。私も、家族は大事にしているので総一君の立場なら帰っちゃうかも……。だから気にしないで」


明日香さんが俺に極力罪悪感を与えないような配慮をしているのに気付き、女神みたいな人だと思うと同時に彼女の優しさが胸に沁みる。

こういうところが、失恋した俺に響いてほいほいと連れて行かれたのだと客観的に見ていると納得してしまった。


「なにか違うことで埋め合わせ出来れば良いのですが……」

「埋め合わせ……。あ!なら、お願いあるんだけど!」

「お願いですか?どうしたんですか明日香さん?」


また今日もお持ち帰りされるのかな?

なんて変な期待をしている自分がいて気持ち悪くなる。

ないない、と自分の心を落ち着かせた。

そのまま明日香さんの言葉を待つ。


「総一君の連絡先ちょうだい?」

「お、俺の連絡先?」

「うん!欲しいな、総一君のスマホの連絡先」


俺のアパートに固定電話は置いていないので、必然的にスマホの連絡先になる。

別にこんな金髪な美人の連絡先が増えるなら大歓迎ではある。


「ラインの連絡先で大丈夫ですか?」

「お?肯定したんだね。おっけー!じゃあ、連絡先交換しよっか」


まさか、優香より先に明日香さんの連絡先の入手が先になるなんて……。

朝にちょうど、優香と連絡先交換しようと話していたのでやたらタイムリーであった。

QRコードの読み取り機能でお互いにラインのIDを交換し、友達追加をしていく。

『桐原明日香』のフレンドが追加された。


「うわぁ!ありがとう総一君!」

「いえ。こちらこそありがとうございます」


鈴川涼子の名前がラインに増えた時と同じく、レベル高い女子の連絡先が増える時は達成感のようなものが漲ってくる。

明日香さんの連絡先が増えたスマホをポケットに突っ込んだ。


「あ、そうだ総一君?」

「え?どうかしました?」


明日香さんはカバンにスマホを突っ込み終わると俺に目を向けて質問を投げ掛けてきた。


「昨日、マンションで私の妹に会わなかった?」

「え……?」

「会った?会ってない?」


突然どうしたのか。

先ほどまでは柔らかい雰囲気だったのに、明日香さんの態度は少し鋭いモノへと変化していた。

突然どうしたのだろうか……?

家族を大事にしていると先ほどは言っていたが、実は少し仲が悪いなんてこともあるのかと勘ぐってしまいそうになる。


い、一応は昨日は会わなかったことにした方が良いかな?

優香のことも会わなかったし、優香が妹とは知らない、クラスは妹と同じことも伏せたことが良いのだろうか。

ボロが出ないか、きちんと頭でつじつまを構築していく。


「あ、会ってないですよ……。それがなにか……?」

「ふーっ。なら良かった……」

「良かった?」


なにが良かった?

妹と……、優香と会わせたくなかった?

明日香さんの真意が一気に見えなくなると、彼女の口が開かれる。


「ウチの妹、メッチャメッチャメーーーッチャビッチだから」

「…………は?」

「男漁りが趣味なの。知らないおじさんとか家に連れ込んではやりまくりなの……。ふーっ、良かった総一君が被害に合わなくて……」

「???」


この人はなにを言っているんだろう?

あれ?

優香の言葉が脳にリフレインしていく。


『高嶺君はウチのお姉ちゃんの本性を知らないんですよ!』

『わたしの姉、めっちゃビッチなんで止めた方が良いですよ!』


む、矛盾してる……!

え?え?

どういうことなの?


嘘付いてるの?

嘘付かれているの?

脳がオーバーフローを起こしはじめた。


「あっと……!すいません、そろそろスーパーの割り引きタイムがはじまるので今日は失礼します」

「あら、結構引き留めちゃったね……。ごめんなさい」

「いえいえ。すいません、今日は失礼します!」

「はーい!こちらからも連絡するかも!またねー!」


明日香さんと別れながら、スーパー目指して走っていく。

どういうことなんだ……?

混乱した頭で、明日香さんの言葉を理解するのは今の俺には無理なくらいに衝撃的な言葉であった……。

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