13、同じ場所で再会
耳の奥から声がする。
『あっ!あっ!』
これは……、昨日の喘ぎ。
「であるからして、ヨーロッパの気候は……」
地理の授業を受けていて集中しなくてはいけないのに、黒板の内容が頭に入らない。
授業内容をノートにまとめないといけないとわかっていても、シャープペンが走らない。
ドキドキドキドキと鼓動が止まらず、無意識にペン回しをしていく。
「…………」
今日はずっとこんな調子だ……。
頭に授業内容がさっぱり入らない。
クラスメートの中にも、とっくに童貞を卒業した者が何人かいる。
彼らに初体験後はどうやって授業を受けたのかレクチャーしてもらいたい。
いや、そんなのは甘えだ。
自分で乗り越えるべき壁だと甘えを吹っ切る。
「真面目にならないと……」
最初はやっぱり……、責任大事だよなぁ……。
軽々しく大人の階段を登ってしまったが、その責任は男として取らなくてはいけない。
セの付くフレンドなんて逃げ道は作らず、きちんと恋人と優香を紹介出来る男にならなくてはいけない。
それには、まずきちんと自分が男だと誇れるような人にならなくてはならない。
「色々と男磨きをしなくちゃいけないなぁ……」
そのためにも、勉強はおろそかにしてはいけないか。
優香から自慢されるような男になりたい。
ペン回しの指を止めると、シャープペンの切っ先をノートに向ける。
遅れているぶんの内容をノートに書き写していく。
優等生な優香を追い越すのは無理だとしても、成績で並べるようにはなりたいという目標を建てた。
容姿や性格など、変えていくべきところもあるだろうしまずは変えられるところから頑張っていこう。
「…………」
あとは、……虐められているのを直さないとな……。
重い重い現実がのし掛かり、ちょっとだけ憂鬱にさせた。
その憂鬱さに負けないように、シャープペンを動かしてノートの余白を埋めていった。
─────
「はぁ……。終わったぁぁ……」
学校1日ぶんの授業が全部終わった。
1人暮らしのこともあり、部活に所属していない俺はもうすることはないとはいえ他の生徒の大半はこれから活動があるのだから素直に感心する。
雄二はサッカー部に所属しているので、結構真っ先に教室から居なくなる。
ただ、ウチの学校のサッカー部は人数ギリギリの弱小部活だと自虐する彼は結構サボりがちな面もある。
「部活か……」
ちょっとそういうのに憧れたりはする。
サッカーをしたり、ソフトボールをしたりするのは嫌いじゃないだからだ。
なんなら走る徒競争ですらわりと好きな部類だ。
でも、伸び伸びとしていたいなぁという気持ちが強い。
やりたいスポーツが多過ぎて部活に入ってまでやりたいことが結局決められなかった。
「優香、部活いこーっ!」
「行く行く!もうちょっとで準備終わるからー」
鈴川さんと優香のやり取りがすぐ側で行われている。
手芸部で裁縫とかしているんだったかな。
優香が裁縫出来るとかイメージピッタリだなんて考えてしまう。
ぼーっとそちらに視線を移すと、優香が俺の視線に気付きニコッと笑ってきた。
それにドキッとしつつ、右手を上げて手を振ってみる。
「……!」
それに気付いたように優香も手を振ってくれた。
コミュニケーションが取れたことによる嬉しさもあり、胸の中が温かくなった。
「帰るか……」
することも無くなったので、席から立ち上がった。
買い物をしたりと放課後にする予定を頭に組み立てながら教室を出ていく。
─────
学校を飛び出して、道なりに歩道を歩く。
学校だと優香としゃべれる機会が無かったので、もうちょっと絡めるようになりたいなぁと反省点を頭に浮かべていく。
「でも、やっぱり可愛いよなぁ優香……」
可愛い子はヤンキーにお持ち帰りされて気が強い子になりがちとかネットでの書き込みを見たことがある。
ヤンキーに狙われることがないように俺がしっかりしなくては。
それこそ、筋肉付けて逆境を跳ね返せる人間を目指すのもありかな?
中肉中背な自分の二の腕を見ながら鍛えることも視野に入れていた時だった。
「あ……」
──このベンチで失恋に泣いていたんだよな……。
昨日、明日香さんと邂逅した場所まで来てしまった。
すべてはここからはじまったんだった。
懐かしさなんか昨日のことなのでなにもないのだが、思うところは100はある。
そんな複雑な心境にさせられるベンチを立ち止まって見てしまう。
「……………………」
まぁ、いっか。
早く買い物に行かないと。
そうして、ベンチから目を離し、道を歩こうとした時だった。
『──総一君……?』
「え?」
俺が歩いてきた学校の方向から俺を呼ぶ優しそうな声に振り向く。
優香の声?と反応を示したが、どうやらそれは勘違いだったようだ。
「あ、明日香さん!?」
「そ、総一君……。昨日ぶりだね。またこのベンチで見付けるなんて運命なのかな?」
腰辺りまで長く伸ばした美しい金髪の女性がまた目の前に立っていた。
ゆるふわな雰囲気が美人を抱いた昨日よりも、若干真面目そうな人に見える。
ただ、昨日と同じシャンプーの甘い香りは変わらずで本物の桐原明日香さんなんだなと確信したのであった。
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