2、お持ち帰りされた家にクラスメートが来ました
「へぇ……、総一君はA型なんだー。確かに真面目っぽいよねー」
「で、ですかね……」
明日香さんから色々と他愛ないプロフィールを埋めるような質問を投げ掛けられながらそれに答えていく。
A型というだけで真面目なイメージを持たれがちだが、異性からもそう言われると『そうなのかも……』と思わされてこそばゆい。
「どの辺住んでるの?」
「駅からは遠くて……。陸橋が近い住宅街ですよ」
「あー、なるほど!実家暮らし?」
「はい。実家から高校に通ってます」
「失恋したってことだけど、……そ、そういう経験はどれくらいある?」
「はい。…………え?経験……?け、けいけん!?」
「…………う、うん。け、経験」
「…………」
ずっと打ちやすい返事の質問ばかりだなと100キロ前後のストレートの球をフリーバッテングしていたところ、予告なくいきなり160キロの変化球を投げられた気分になり声が裏返りながら質問を頭で反復させる。
(経験って……、せ、せ、せ、セクスのことぉ……!?)
あまりに恐れ多くて脳内ですら小さい『ッ』の発音が出来ずに口が閉じてしまう。
「ご、ごめんなさい……」
明日香さんもいきなりの質問だったと謝りながら頭を下げてくる。
「いやいや、やめてくださいよ!」と俺も謝罪をすることにより、お互いが謝り合うことになる。
「た、ただ……。恥ずかしいことですが……。や、やったことは1度もありません……」
「ご、ごめんね!気を遣わせて!べ、別に私は童貞だからどうとか偏見はないの!……む、むしろらっき……」
「む、むしろなんですか?」
「ああ、いや!なんでもないのっ!」
『むしろ』以降、ごにゃごにゃと呟いていて日本語になっていなくて、聞き取れなかった。
ただ明日香さんは金髪をバタバタさせながら「気にしないで!」と念押しされて、愚直に従うことにした。
「(じゃあ、失恋した子とやった事実はないということね……)」
し、しかしお持ち帰りされている事実を目の当たりにすると、1秒1秒の心臓の負担が重い……。
お持ち帰りされている今夜を想像すると、『明日香さんとそういうこと絶対出来るだろ!まさかこんな年上金髪美女から俺の童貞をもらわれるなんて!』という高揚感がヤバい……。
それと同時に、明日香さんとは今夜っきりか、定期的にやってくれるフレンドになるのか、純粋に彼女になるのかという可能性が無限に広がっていく。
失恋した筋肉フェチだったあの子よりも、顔の好みでは負けるが既に中身では明日香さんの方が天秤が傾いてしまっている。
「あ!そうだ!お夕飯はウチで良いかな?」
「ゆ、夕飯ですか?」
「うん。外食でも良いけどやっぱり私は自分で総一君をもてなしたいな……」
「ご馳走になります!」
「ありがとう。期待しててね。苦手な食べ物あるかな?」
「ナスとかパセリ……」
「はーい。わかりました!」
やばい……。
自分の妄想が現実になったかのような展開に果てない性欲が沸き上がったのと、裏切られないかという恐怖感も一緒にセットになる。
美人局とかじゃないよね……?
俺、高校生だしお金とか無いよ……?
「じゃあ男の子はお肉好きだよね!ハンバーグカレーとかどう!?」
「大好物です!」
「じゃあ、気合い入れて作っちゃうよ!」
あ、詐欺じゃねーよ。
めちゃくちゃ美しく微笑まれ、この明日香さんの反応ガチだよと確信する。
これが詐欺による偽りの笑顔なら、俺は一生恋愛出来ないくらいの出来事になる自信があった。
それからほどなくして、彼女の住むマンションの1室に案内される。
「ウチに姉妹がいるけど、あまり気にしないでね」
「はい。大丈夫です」
「あ!総一君格好良いからって、妹に誘惑されても断ってね!」
「誘惑なんてあり得ませんよ。今まで1回もされたことないんですから……」
「でも油断出来ない子が家にいるのよ……」
「油断出来ない子って……。要らぬ心配ですって……」
過去を回想しても、『●●君ってイケメンだよねー!』とか『■■君って彼女いるのかなぁ!?』とか悩めるクラスの女子は嫌になるくらい見てきたが、『高嶺君素敵過ぎて処女卒業したいよねー!』みたいな噂はついぞ耳にしたことがない。
俺の学校でヒエラルキーはモブレベルなのは間違いない。
「そう?じゃあこっちに来てー」と案内されて居間のような場所に連れて来られる。
「テレビでも見ててー」とリモコンを操作するとニュース番組が流れてきた。
『本日、北海道の山の中で熊がいました』とアナウンサーが読み上げていた。
そもそも熊は山に生息しているのだからなにが珍しいのだろうと思ってしまった……。
「じゃあちょっとこれからお風呂沸かしたり、夕飯作るから待っててー」と言われてテーブルの前に座らせられた。
ずいぶんとオシャレな本棚とか、インテリアな小物が並べられていて妙に落ち着かない。
色気もなにもない自分の家と同じ人が暮らしている場とはかけ離れたような空間に思えてくる。
セキュリティもしっかりしてそうだし、意外と両親が金持ちなのかもなんて失礼な予想をしてしまう。
クッションに座りながらテレビよりも部屋に飾られてあるものに目を向けて時間を潰していると、バタバタと歩き回る明日香さんの足音がする。
「…………」
ただ座っているだけでは申し訳ない気持ちになる。
なにか手伝うことはないかとそわそわしてしまい、進言しようか迷っていたら明日香さんがキッチンに向かっていく。
声を掛ける間もなく、キッチンに行ってしまいそわそわタイムが続いていた時だった。
『うわっ!全然食料品ないじゃん!』
明日香さんの焦った声がして、キッチンまで足を運んでしまう。
「だ、大丈夫ですか?」
「ごめーん!総一君!あまりにも冷蔵庫がスカスカだった!これから買いに行ってくるからお風呂のお湯だけ満杯になったら止めててくれないかな?」
「わかりました!」
「お風呂満杯になったら追い焚きボタンも押してくれると助かる!」
「やっておきます!」
家にあるお風呂のガスと同じようだ。
毎日明日香さんや、妹さんが入っている風呂に入れるという背徳感もはじめての感情だった。
それから明日香さんはマイバッグを持ちながらマンションを飛び出した。
10分ほどして、お風呂も良い具合になり蛇口を捻りお湯が出るのを止める。
追い焚きボタンを押しながら、ささっと風呂場、脱衣場を抜け出す。
誰のものかはわからないがチラッと白い布が見えてしまい見てないと言い訳しながら居間のクッションに座る。
落ち着かない気持ちのまま、明日香さんの帰りを待っていた時だ。
『ただいまー』という声がした。
明日香さんが帰ったのかな?と首を伸ばして振り返った時だった。
「え……?た、高嶺君……?」
「あ……。き、桐原さん……?」
明日香さんかと思っていた帰宅してきた相手は……、クラスメートの桐原さんという女子であった。
クラスが同じだけで、そんなに会話もしたことがない相手だ。
口を聞いたことがないわけではないが、実質はじめてのプライベートな会話に近いかもしれない。
そんな仲良くもない女子の桐原さんと明日香さんのマンションで出会ってしまい、気まずさはマックスだ。
「…………」
あー……。
やっぱり桐原って名字は桐原さんと家族だからか……。
明日香さんと桐原さんが姉妹ということはすぐに察していた。
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