17、お互いのコンプレックス
「じゃあ、優香はどんなものが好きなの?」
攻守交代とばかりに、次は優香へ自己紹介をバトンタッチさせる。
ヤってから自己紹介するのもよくわからないが、多分お互いを知ってからの方が関係が長続き出来ると思っている。
「そうですねー……。家族」
「間違いないね!両親はあのマンションで暮らしてないの?」
「わたしたちの両親は田舎住みでして……。学校はこっちの方がレベル高いからと姉共々送られてきたんですね」
「なるほど!確かに優香の成績良いもんね!」
学年10位とかに桐原優香がいたと、ちょっと風の噂で聞いたことがある。
結構学歴に厳しい親のようだ。
「わわっ、わたしの学校の成績知られているのは恥ずかしいよ……。そんなに誇れるものじゃありませんから……」
「そんなこといったら俺だってそんなに頭良くないし……」
「学年33位でしたよね!?ゾロ目だし縁起良いじゃないですか!?」
「し、知ってるんだ俺の成績……」
部活している連中には成績ぐらいは負けたくなくて、勉強に力を入れているのだが30位内にはまだ入ったことがないこともあり、誇れるものではなかった。
今日の授業中にも痛覚したことだが、優香には並べるくらいには成績を上げたいものだ。
「涼子から聞いてたんだ……」
「あー……。鈴川さんから……」
一緒にテスト勉強してたこともあり、成績の見せ合いっこしてたんだったな……。
あ、思い出した。
だから優香の成績が10位だっていうのも彼女から聞かされたんだった。
「ウチのお姉ちゃん、凄く優秀なんですよ……」
「あ、そうなんだ……」
「男扱いも上手くて、勉強も出来る……。完璧超人とはああいう人のことを言うんですね。お姉ちゃんの男癖の悪さには理解出来ませんが、そこ以外は自慢することしかないんですよ……」
自虐的に呟きながら、姉のことを語る優香。
明日香さんは優香にとってそういう人のようだ。
「姉さんは優しくてさ、一途になにかをやり遂げる人なんだよ……。本当、好きなのにコンプレックス抱えるなぁ……」
「わかるわかる。俺もコンプレックスばっかりだよ……。みんなと比べてはすぐに嫌になるとか……。そんなのばっかりだよ」
「えー?本当に?」
「ほんと、ほんと」
確かに明日香さんは優しいし、なんでも一途そうな人だ。
俺のイメージにピッタリのようだ。
だからこそ、ビッチそうなイメージに全然当てはまらない。
なんかお互いが嘘を言い合っているのかとすら思えてくる……。
もうこれ、わかんねーな。
「でも、姉妹の中では、やっぱりわたしは出来損ないなんだよ……。ハイスペックなところは上に持っていかれちゃった感じ……」
「そんなことないよ。優香は可愛いじゃないか」
「そ、総一君……!」
「月並みのことしか言えないけど……、俺は優香の積極的なところとかに惹かれているし。全然コンプレックスに感じる必要なんてないんじゃないかな……」
「ふふふっ。本当に月並み」
「ぐっ……。教養がないバカでごめんよ……」
女扱いに慣れてる雄二とか、年の離れた優秀な兄貴だったらもうちょっと気の利いたことも言えたのかな?
なんやかんや、自分もコンプレックスの塊である。
「でも、総一君に認められてるだけで嬉しいな」
「優香……」
「ふふっ」
「あ……」
優香が俺の胸に抱き付いてくる。
そのまま顔を俺の胸へ埋めてきた。
そんな似た者同士の優香の頭を触る。
「あ、総一君……」
「キレイな髪だね……。きちんとお手入れされているね……」
柔らかくてサラッとしている黒髪に、手がすっと入っていく。
その長い髪を傷めつけないように繊細になりながら、頭を撫でていく。
「総一君……」
「ま、お互い一緒に頑張っていこうよ」
「そうだね……。一緒に頑張っていこう!」
いつの間にか、俺の中で桐原優香という少女の存在が大きくなっていくのをひしひしと感じている。
多分、かなり心が持っていかれている気がする。
これが恋なのかな……?
鈴川さんに抱いていた気持ちと、優香に向ける気持ちが同じなのか……。
まだちょっとだけ自信はないのだけれど……。
「よし!」と、優香が気合いを入れたようにして顔を上げた。
「どうしたの?」
「ん……」
「ん……」
顔を上げたと思ったらキスをされる。
どうやらイチャイチャしたかっただけのようだ。
でも、そのキスを素直に受け取れた。
「へへへっ……。涼子に惹かれていく総一君を見るのが辛かったから……。こうして近くにいれるのがとても嬉しい……」
「あ、ありがとう……」
確かに、鈴川さんのことしか見てなくて近くにいた桐原さんのことは見えてなかった。
彼女の友達程度しか認識していなかったのだから。
「お、俺も……。優香が近くにいてくれて嬉しいよ」
「総一君……。ありがとう……」
次は俺の方から優香へ抱き付いて見せた。
なんとなく胸にダイブするのは恥ずかしくて、背中へ手を回して抱き付く形にした。
慣れないイチャイチャをして、自分からキスをしたりしていた。
昨日と比べたら、かなり幼いスキンシップであったが、それがなんだかとても気持ちが良いものだった。
心が安らいでいく。
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