19、まだまだ未練ありそう……
あの鬼女っ!
あの悪魔っ!
あの鬼畜野郎っっっ!
情けないながら、口に出すことが出来ない川島千晶への愚痴と罵りと文句を頭の中で何回も何回も反復させる。
多分俺がイライラを増幅させることで、川島さんの思うツボなのだろうがこの瞬間だけは怒りを爆発させなければ、ストレスで気が狂いそうだった。
「ふぅぅ……。ふぅぅ……」
しかし、教室に入ってまで怒りを爆発させては俺は痛い奴認定される。
自分の席に座ると、これみよがしに深呼吸をしてクールダウンさせていく。
怒りを静めようと空気を取り入れる。
5回ほどの深呼吸でようやく心が落ち着き、拳の形になっていた右手が開いていく。
すでにホームルームがはじまるまで10分切っているじゃないかと時計を見ては焦り、カバンを開けて教科書やノートなどの教材を机に詰め込んでいく。
その焦っている様子の俺に気付いたのか、雄二が「おはようさん」と挨拶をしてくる。
「おはよう」と返しながら、手を動かして机の中を整理していく。
基本的には、時間割りの順番に取りやすいように教科書を並べていく癖が今日も発生していた。
「なんだなんだ?今日はずいぶんゆっくりじゃないか。重役出勤でも覚えたか?」
「そんなんじゃねぇよ……。ただ……」
「ただ?」
虐められてたと助けを求めるのは簡単だが、雄二は知らない。
関係ない彼を巻き込みたくなくて、雄二の前で川島千晶の名前は出さない。
というか、クラスの中で川島さんから脅されているのを知っているのは当事者の2人だけである。
「イレギュラーで通学している道路が通行止めしていただけだよ……」
「あるあるだよなー、そういうの。大変だな」
「明日には直ってると思うけどね」
そんな嘘を言いながら、ようやく机の整理が終わる。
空っぽのカバンを後ろの棚に持っていかなくてはならない。
席を立とうとしたら、雄二が「いいよ、いいよ」と言いながらカバンを持ってくれた。
「大変だったんだろ?座ってろよ。どうせ俺の席は後ろだしゆっくり休んでろよ。すぐに先生来るけどな」
「あ、ありがとう雄二」
「良いってことよ」
グッとしながら雄二が俺のカバンを棚に入れてくれた。
本当に助かる!
軽い奴だけど、こういう助けてくれる面もあるからこそ巻き込みたくなかった。
ガチで彼に感謝をしているとチャイムが鳴り響いたのであった。
─────
移動教室か……。
昼前の最後の授業である4時間目。
化学の授業のために化学室への移動を強要される。
これより前の授業は怒りを沈めてなんとかこなしてきたが、教室から移動するのが面倒に感じていた。
これも勉強のためだから仕方ないか……。
教室の出入口から出ようかとタイミングを見計らっていると、女子3名ほどと雑談をしながら教室を出て行く川島さんを見付ける。
「う……、もうちょいタイミング遅くしよ……」
彼女はチラッと俺を見る。
その表情は無表情であり、背筋が凍る。
くわばら、くわばら。
彼女から脅され、虐められ1ヶ月ほど。
被害を極力減らすには避ける・逃げるが、1番である。
顔を合わせないが虐めに対する正攻法な対処方法だと確信している。
それは川島さんだけかもしれないが、地味にこうやって意識すると過ごしやすいものである。
川島さんの背中を見送り、まだ椅子から立ち上がらない。
エンカウントするのを減らすことを意識する。
「よし」
川島さんが友達数人と消えたのを確認し、教室に残っている人を探していると真っ先に優香が目に入る。
すぐに優香が視界に入るのは、なんかかなり意識しているんだな……。
自分の目はかなり正直者だった。
彼女は自分の席から近い大滝さんというメガネをかけた女性と談笑しながら廊下へ出て行く。
勉強の話とか、オシャレの話とか、兄弟姉妹の話とかしているのかな?
女子同士の会話を妄想しながら、あと30秒だけ待とうと自制する。
川島さんと会わないように計算し、早く化学室に行きたい欲求を抑える。
既に教室に残っているメンバーは3分の1ほどという少数である。
「…………!」
よし、俺も化学室に行こうと時計の長い針が動いたのを確認して廊下に出ようとした時だった。
「あ!高嶺君!」
「え?鈴川さん?」
「同じタイミングだったね」
ちょうど同じ教室のドアで鉢合わせしたのは俺が告白し、筋肉フェチだからも断りをした鈴川さんであった。
ちょっと気まずいながらも、「一緒に話しながら歩こう」と誘われて廊下へ出た。
ふ、振られたとはいえ俺の前でニコニコ笑っている姿を見るとこれは勘違いするって……と、未だに好感触な気がしてくる。
川島さんのような、悪魔的な仮面を被ったかのような笑いかたじゃないのも俺が惹かれるところだった。
「い、移動教室ってだるいよね……。別に実験しない日くらい教室で授業しても良いはずなのにね」
「あー!わかる!移動教室って確かにだるい!」
「す、鈴川さんもだるいって使うんだ」
「そりゃあ使いますよ。嫌な時は口悪いこと言うよ」
自分から振った話だが、なんか彼女の新しい一面を見れて新鮮味がある。
こういうところに共感し、まだ彼女にドキドキしている自分に気付く。
「…………」
まだまだ自分は鈴川さんに未練があるんだな……。
盛大に振られたことを思い出して、何回目かわからない哀しみがまた沸き起こった……。
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