緊急入院⑩ 三月上旬 ステロイド痤瘡

 二度目のステロイドパルスも問題なく終える。特にバイタルの変動もなく、これといった自覚症状もなし。


 なんだかこの頃は特に精神面が不安定になっていて、遺書とかどう書くんだろとか考えていた。逝く時は、絶対ひでぶっ!って言ってやろうと思ってた。


 そんな状態になると、今までなんともなかった胸腺腫がやけに気になり出して腫瘍がある側の胸の痛みを感じるようになってきた。横向いて寝れなかった気がする。


 自分でも何が何だかわからないまま、夜へと突入。この日もウトウトするだけで結局まともに眠れず。パルスの副作用バリバリ出てますね。



 そして、入院四日目の朝。


 いつも通り先生の回診が来るタイミングで、ここで一つ訴える。これだけは、やっぱりどうにも我慢できなかった。


「おはようございますー。調子どうですか?」


「相変わらずなんですけど……先生、一つお願いがあるんですけど。ご飯、どうにかなりませんか? やっぱり、ムース食じゃ……」


「あ、じゃあ細かく刻んだやつにあげます? いいですよー」


 いいのかよ。軽いな。

 なんかもっと、精査してからじゃないとダメなんだと思ってたわ。


「一応、口のリハビリの先生に聞いてみますけど、大丈夫だと思いますよ。ムセとかないですよね?」


「あ、はい。大丈夫です」


「じゃあ、お昼から変えておきますねー。今日は、午前中に皮膚科で診てもらって、午後からは三回目のパルスやりますねー」


 そして、相変わらず忙しそうに先生は去っていく。


 この頃何一ついい事がなかった私にとって、食事形態が変わることは嬉しかった。ただ、それと同時にちゃんと食べられるかは不安だった。


 やっぱりムース食は格段に食べやすく、口の負担は少なかったし、食事時間もかからなかった。ただ固形物になるだけで、咀嚼や飲み込みの負担も全然変わってくる。


 そんな感じでモヤモヤしてると、日勤の看護師さんが挨拶にきた。


「おはようございますー。よろしくお願いします」


 この看護師さんは本当に印象が残ってる。まだ若く勤めて一年くらいと話していたが、とにかくフワフワしていた。


「皮膚科から呼ばれたので行きましょう。歩けますかー?」


「あ、大丈夫だと思います」


「ちょっと遠いから、頑張りましょうねー」


 皮膚科は別病棟にあるらしく、割と距離があった。看護師さんと一緒にエレベーターに乗り、病棟をまたぎ、あっちらこっちら曲がり。


 息切れが始まり、まだ着かないのかと思い始めた時、看護師さんは呟く。


「あれー……?」


 この一言で全てを察した。この人、迷ってるよ。おかしいなって思ったもん。全然着かないもん。


「ごめんなさい、私こっちの方全然来なくて……ちょっと聞いてきますね」


 なんか、警備員みたいな人に皮膚科の場所聞いてたけど"わかりません"って言われて焦ってた。その後聞き回って、判明したこと。


「なんか、皮膚科とっくに過ぎちゃってました。おかしいですねー、気づきませんでしたねー?」


 ねー?って言われても知らんがな。

 こっちは必死になってついてきたんだよ。


 そのまま来た通路を戻ると、皮膚科の文字を確認。


「あのー、皮膚科ここっぽいですよ」


「……えっ? あー、本当だ! また、通り過ぎちゃうところでしたね!」


 この娘、大丈夫かな?って感想しか出てこなかったけど、不思議なもので憎めない。そういう空気感持った人っていますよね。


 看護師さんって、ド天然タイプにあたると勘弁してくれって基本思うんですけど。この娘だけは、なんかすごい好きでした。


「じゃあ、名前呼ばれると思うんでここで待ってて下さいねー。終わったらお迎えきますから」


 そう言い残し、去っていく。ちゃんと自分の病棟へ帰れるのか若干不安だった。


 しばらく待っていると、私の名前が呼ばれ診察室へ。中へ入ると、女の先生だった。


「こんにちはー。えっと……ちょっと待ってくださいねー」


 先生は、私の情報を色々と読み込み確認している。


「はいはい、ステロイド飲んでて。それで胸と背中にブツブツね。ニキビみたいな感じでしょ?」


「えっ、まあ。はい、赤いニキビみたいな」


「服めくって、見せてもらっていいですか?」


 服をめくり、状態を見てもらう。一目見ただけで、先生は即答。


「うん、ステロイド痤瘡です。ステロイド内服してる人は良く出る症状で、ニキビみたいなものですよ。ほら、この茶色になってるやつは治りかけてるやつ。そんな酷くはないけど、塗り薬出しておきますね」


「あ、わかりました」


「あ、そうそうー! これね、試供品なんだけど! ニキビ用のボディ石鹸なの! 使ってみてくださいね!」


 急にフランクになってビビった。

 なんで、ボディ石鹸でテンション上がってるんだよ、この先生。


「良くならなかったら、また来てくださいー。

はい、もう大丈夫ですよー」


 ということで、あっさり診察終了。

 事務の人が病棟に内線してくれて、看護師さん登場。


「どうでしたー?」


「なんか、ステロイド痤瘡っていってニキビみたいなもんらしいです」


「午後からはまた点滴なので、頑張りましょーね!」


 自分で話しふったんだから、なんか言えよ。

 本当にマイペースな子だな。


 もうこの頃からだいぶ時間経ったのであんまり覚えてないですが、この娘との会話は終始こんな感じでした。また会いたいものです。



 次回、念願の固形ご飯と、免疫グロブリン!


 



 

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