仕事復帰③ 二月中旬〜下旬 


 診断後、CT撮影へと向かったけれどほとんど印象にない。それくらい、難病診断されたショックが強かったのだろう。

 言われるがままに横になって、合図で息止めてたら終わっていた。


 内科医からはなぜCTを撮るかの説明はされなかったけれど、事前に自分で調べていたので察していた。合併して起きる胸腺腫の有無を調べる為だろうと。

 そして、根拠もないが直感的に結果もわかっていた。"多分、俺あるな。胸腺腫"

  (本当にあるよ! エスパーだね!)


 そして、会計を済ませ内服薬を受け取る。

 そのまま向かった先は、職場だった。


 元々、今日が診断結果が出る日だと伝えていたので結果報告をするため……というより、退職も視野に入れて話しをする、少なくとも役職は降ろしてもらおうという相談をするため。


 身体を使う仕事の為、もうこの病気では続けられないと思った。もう仕方ないのだと。


 

 職場に着き、事務所で仕事をしていたトップの上司に報告をする。

 上司には、重症筋無力症の可能性はあること。どのような病気なのかは事前に話していた。


「診断結果出たんですけど……やっぱり重症筋無力症でした。とりあえず、夜勤は今後出来ないかと思います。っていうか、普通の業務自体も……」

「あー、じゃあ、日勤だけで入りなよ。八時間がキツかったら私が半分現場入るし。入れ替わって事務してくれればいいから」

「えっと……いや。でも……」

「あんたねえ、仕事辞めようと思ってたでしょ? とりあえず出来る形で、働いてみりゃいいじゃん。役職も下ろすつもりないし」


 自分の考えていることなんてガッツリ見透かされていた。それくらい負のオーラも出ていたのかもしれない。

 

 ただ、ここで引き止めてくれたのは本当に優しさなのだと思う。制限がある不安定な職員なんてぶっちゃけ会社からすれば使いづらい。

 無慈悲であれば、そのまま「それじゃ、仕方ないね」とすんなりと退職を受け入れるだろう。


 ただ、そうした時に大変なのはそれからだ。

 病気を抱えたまま新しい職を探し、仕事を覚え、環境に適応しなければいけない。

 そもそも、職に就く自体難しいのに自分の病気を理解してくれる環境とも限らない。


 それも見据えた上で、上司は引き止めてくれた。


「他の人には言ってないけど、ウチの理事も指定難病だよ。何回か入院してるけど、バリバリ働いてるでしょ」

「え……そうなんですか? 知らなかった……」

「理事以外でも、病気抱えて仕事してる人なんか山程いるんだから。現場入らなくても、役職やってる人いるし。あんたが出来る形で、やってくれればいいよ」


 理事の話しは衝撃だった。そして、急に気が楽になり希望が沸いた。自分だって、どうにかなるかもしれないと。


 理事とは色々と絡みがあったけれど、難病を抱えているなんて一切気づかなかった。それくらい忙しく働いていたし、異常なほどハイテンションな人だ。


 ただ、何度か入院していたのは知っていた。足の骨折で松葉杖をついていた期間もあった。

それでも、大して気にかからなかったのはそれ程にひょうひょうとしてたからだ。

(あとから本人から聞いたけれど、ステロイド内服で骨が脆くなり折れたらしい。おじいちゃんレベルの骨密度になってたよ!と笑っていた)


 理事は自分とは違った病気だけれど、同じ自己免疫疾患で中々にしんどいものだ。それなのに、なんて気丈な人なのだろうと。自分も見習わねばと心から思った。


 後々、理事とは難病・入院トークでめちゃくちゃ盛り上がるんだけどそれはまた別のお話し。



 その後、上司と色々と話しをした。

 威圧感は凄いけれど、とても優しい人だ。本当に自分のこの先のことを考えながら話をしてくれているのが伝わった。


 帰宅してからも、職場の色んな人から連絡がきた。皆心配してくれていて、なんともいい人達に囲まれたものだと実感した。


 最悪な夜が来ることを覚悟していたけれど、わりとメンタルは好調。やっぱり人との繋がりというのは力に変わりますね。


 医師からも仕事は普通に続けていいと言われていた為、翌日からの仕事も頑張ろうと意気込みながら眠りについた。



 そして、その一週間後には救急車に乗せられ、人生初めての入院となるのであった。


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