緊急入院 二月下旬


 診断を受けた翌日も普通に出勤をしていた。

 ただ、周りの優しさがあったとしても心にダメージはしっかり喰らっていた。

 

 今まで多少の不調なんて気にならなかった。ただ、自分が難病を抱えている事実を知ってから特段と症状が重く感じられた。


 目のダルさ、首裏の重さ、口の動かなさ。

 息苦しさ、声が出づらい。咳や痰がでる。

 身体の倦怠感、持続行動の出来なさ。


 本当は今まで普通に出ていた症状だったのかもしれない。ただ、病気を認識しただけで急にツラく不安が増していた。

 

 ストレスでも症状が出てしまう病気らしいが、多分そういう問題ではなかったのだろう。


 ただの神経麻痺の類でその内良くなるという精神状態と、ずっと難病と付き合っていかなければいけないと突きつけられた精神状態じゃ、明らかに身体の動きが違った。

 病は気から理論である。


 そうなると、必然と仕事がツラかった。

 軽い仕事に変更してもらっていたが、単純に八時間勤務というものに耐えられない身体になっていた。


 ただもう気力だけで仕事を続けていたが、四日ほど働いた後についに俺の心が折れた。


 そのきっかけは、咳や咳払いができなくなったこと。胸やのどに何か詰まっている感覚で咳をしたいのだけど、うまく出来ない。

 しようとすると、"ううううううう"みたいな変な声が出る。マジビビるね!


 たぶん、そこら辺に使う筋肉が動いてくれなくなってたのでしょう。苦しさもあったし。


 次の日の朝。倦怠感と共に症状が重くなっていて、お休みをもらいたいと職場へ連絡。

 ナースから「休むのなんか全然いいけど、土日明けたらすぐ受診しろ」と指示を受ける。


 おっしゃる通りなんだけど、気はのらなかった。結構ヤバい状態になってるのはわかっていたから、受診したら入院調整とかされるかもと。


 "この土日しっかり休んだら、良くなってくれないかなあ"とか思いながら療養に努めた。

 っていうか、ベッド上から動く気力が出なかった。


 そして、明けた月曜日に病院へ連絡。

 声がまともに出ないから、電話するのも必死だった。掠れた声で状態をなんとか説明し、受診したい旨を伝える。

 ただ、なぜか脳神経内科と連絡がとれないこと、どっちにしろ担当医が午前中は対応できないとのことで待ちの状態に。

 

 そして、昼過ぎに電話がかかってくる。


「先生に状態等お話したら、診るので午後から来て下さいと。一般外来じゃなくて、救急外来になりますが。来れますか?」

「え、救急ってほどではないんですが……」

「病気が病気なので、来た方がいいです。送ってくれる方はいますか? 無理ならタクシー呼んで下さい」

「あ、はい。とりあえず伺います」


 ちょっとヤバげだなと、空気で感じた。

 とりあえず、準備を始め病院へと向かう。


 仕事柄、救急外来はよく来ていたが自分が利用するのは初めてだった。少し緊張しながら、受付に声をかける。


「あのー、すいません。お電話した〇〇です」

「あ、はい。大丈夫ですか? 歩けます? とりあえず、そちらのソファへ」


 言われるがままに、待合のソファに。すると、すぐに看護師さんが来た。


「バイタルとりますね。先生すぐ来ますんでね」


 やや金髪が混じった若い看護師さんだった。

 可愛い。声も優しい。好き。血圧でも酸素でも好きなだけとってください。


 とかなんとか考えられるくらいには、まだ余裕はあった。身体も動くし、薬とかが増えてとりあえず経過観察かな……なんてナメた思考がまだ残っていたが。まあ、甘いよね!

 

 少し時間が経ち、診察室へ呼ばれた。

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