自宅療養② 一月末 病名との出会い
そんなこんなで完璧に落ち込んだ私は、ここからどんどんとメンタルがやられていく。
そもそも、診断として視覚神経麻痺なのに口周りの方にまで症状が出るものなのだろうか。
しかも、症状が特殊だった。
麻痺している訳ではない。最初の数口は全く問題なく動くし、食べられる。ただ、途中からスンっと口周りの筋肉が言うことを聞かなくなるのだ。
そして、それは五分くらい休憩すると元に戻る。休憩しては数口食べ、休憩しては食べを繰り返していた。
この頃は普通のサイズのお弁当を食べきるのに四十分以上かかっていた気がする。途中で嫌になり、残すことも沢山あった。
時間がかかるほど首の後ろが痛くなり、食事を終える頃には疲労感で一杯になる。
あんなに大好きだった食べることが、もう苦痛にしか感じなかった。
加えて、この頃から不眠が始まる。
今ならわかるが、ステロイド内服の副作用が出始めていたのだろう。
寝付く時には動悸に近い心臓のバクバク感があり、だいぶ頻脈になる。
寝れたとしても、めちゃくちゃ眠りが浅い。
一時間ほどで目覚めてしまい、今寝ていたのかどうかもわからないレベルの感覚。
目が見えない+食事がとれない+不眠のトリプルコンボを食らって、さすがに参ってしまっていた。
しかもお得意のネット検索をしても、いまいち当てはまる症例が出てこない。
視覚神経麻痺の弊害で口周りの症状が出てくるなんてどこにも書いていないし、顔面神経麻痺とも少し違う。
何より一番の不思議は、休ませると元に戻る。だが、普段の動きと比べると遥かに持続できない。
そう、これが私の患った病気の最大の特徴なのだ。
明らかにおかしいとは感じていた。
ただ、目がおかしいから口の方の神経にも異常がきてるんだろう……という理由づけをしつつ、目と一緒に治るはずと自分に言い聞かせた。
そうしないと、暗い部屋で暗いものに飲み込まれそうだった。
そんな日々に耐えていたある日、ふと職場の看護師から連絡がきた。
「調子はどう? 頭の検査やったんだよね? 大丈夫だった?」
MRIを撮って頭は問題なかったこと。視覚神経麻痺と診断されて療養が必要なことを伝える。
「頭とか、筋無力じゃなくてよかったー! ちゃんと目休めなよ! YouTubeばっか見てちゃダメだからね!」
……筋無力ってなんじゃ?
この単語にやけにひっかかった。
心配してくれていた看護師さんにお礼を言いつつ、やり取りを終えた後にすぐにその単語を検索する。
筋無力……って、これか?
ちゃんとした病名は、重症筋無力っていうんだな。指定難病って……怖っ。治らないとか、こんなんかかったら人生終わりじゃん。
えっと、とりあえず症状はと……
そこに書かれていることに目を通していく毎に、段々と冷や汗が出てくるのを感じた。
"初めは複視、眼瞼下垂の症状が出てくる "
"口周りが動かしづらく、食べこぼしや水が口から出てきてしまう症状もあり"
"休憩すれば元に戻るが、持続ができない"
自分の中で、全てが繋がった気がした。
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