仕事復帰② 二月中旬〜下旬 受診•診断
受診日を迎えたが、割と気持ちは楽だった。
なんだかんだ仕事をこなせているという現状が自信になり、心のどこかで悪い結果である訳がないと思っていた。
"結果出ましたが、特に異常はありませんでした。末梢神経麻痺の類でしょう。時間かかるからゆっくり治していきましょう"
そんな言葉が当たり前に投げかけられるのだろうと想像しつつ、相変わらず長い待ち時間は携帯で漫画を読みながら過ごしていた。余裕ぶっこき野郎である。
アナウンスで名前が呼ばれ入室し、以前と同じ脳神経内科の先生に挨拶する。
先生はわりと淡々と話し出す。
「はい、こんにちは。調子はどうですか」
「えっと、目はだいぶ良くなりました。開いていることがツラい時はありますが、複視はないし両目で見れます」
「身体の動きは? 息苦しさとかはない?」
「身体は動くし、仕事もできてます。息苦しさとかもないです。口の動きは相変わらずですけど……」
「そっか、そっか。なるほど」
相変わらず淡々と反応しつつ、先生はPCを見ながら話し出す。
「じゃあ、前回の血液検査の結果ね。意外にも重症筋無力症でした。抗アセチルコリン受容体が陽性出てます」
あまりにも淡々と一瞬で告げられたもので、心のリアクションに困った。ただ、この瞬間一つだけ強く思ったこと。
お前、何が"意外にも"だよ!
俺が重症筋無力症じゃないかって言った時、あんためっちゃ不機嫌になってそれはほぼないって否定したきたよな!
"意外にも"をつけるだけで、予想外の事態です的な空気出してきてんじゃねえよ!
ショックより先に、その言葉と態度に怒りがきたのを覚えている。まあ、そんなことを怒ったところで仕方ないのだけれど。
ただ、心のどこかでは"ああ、やっぱりな"という気持ちに落ち着いていた。
症状に関してどこか逃避していた自分には気づいていた。ショックはショックだったのだけれど、やっと腑に落ちた感もあった。
「どういったご病気かは、ご自分でも色々調べられてたみたいだから大体わかりますか?」
「はい……大丈夫です」
「とりあえず身体の状態見たいから色々動かしてみてもらうね」
先生に言われるままに、身体を動かす。握力測定や保持運動、歩行等色々やるが特に問題なし。
「身体は大丈夫そうだね。あと、飲みこみの部分でお水を飲んでみて欲しいんだ。ただ、水道水飲ませちゃダメらしいから、下の自販機で買ってきてくんない?」
「え……? あ、はい」
なんか色々と釈然としないまま、階段を降りつつ水を買いに行く。一人になると急に思考が色々な感情に飲み込まれてきた。
"難病患者……" "家族になんて言おう" "仕事はどうなるんだろう" "難治性もあるとか書いてあった……これから悪くなる一方かも" "手術とかもする場合が……怖い。っていうか、下手したら死……"
グルグルまわる思考を抱え、気づいたら診察室に戻ってきていた。
「お疲れ様。じゃあ、お水コップに注ぐから飲んでみてもらっていいかな?」
注がれたお水を問題なく飲み干す。
「嚥下も大丈夫そうだね。今のところ、目の症状が主だね。だから、目にだけ症状が出る"眼筋型"ですね。でも、身体全体に症状が出る"全身型"に今後移行していくこともあります」
「え? いや、口の方にも症状出てるんですけど眼筋型なんですか?」
「いや、まあ飲み込み問題ないから。身体もよく動いてるし」
「あ、そうですか……」
この時点で、この人は何を言ってるんだとしか思わなかった。
最初からそうなんだけど、こっちの言ってること聞きゃしないで疑問にも納得できるように返してくれない。
自分だってネット知識だけの素人だけれど、直感はずっと訴えてきていた。
"この人、絶対ヤブだわ"
「とりあえず、この病気プレドニン内服必要なので増量しつつ引き続き処方します。あと、帰りにCT撮っていってね。次の受診は二週間後にしておきますね」
「二週間後……その間に症状重くなったら来ていいですか?」
「僕がいない日もあるし、土日とかもあるけど悪くなったら来てくださいー」
そう言われ、診察室を後にする。
そのまま、予約が入っていた脳神経外科を受診するがあまり覚えていない。
「あー、MGだったか。とにかくよく、内科の〇〇先生に状態見てもらってね。外科で出来ることはもうないので、今回でこちらの受診はおしまいにしますね。お大事にしてください」
そんなことを言われ、診察自体は速攻で終わった。
とりあえず今日はあの先生ダルそうじゃなかったな。気使われたのかなくらいしか感想はでてこなかった。
そして、こちらも人生初のCT撮影へと向かう。
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