緊急入院④ 二月下旬 入院初日
「身体の調子は……よくわからないけど、とにかく口が全然言うこと聞かなくてご飯食べれないのがツラいです」
「そうですか……、とりあえずこれから入院前にレントゲンと血液検査します。コロナの検査で陰性が出ましたら移動しますからね。またあとで病室に伺います」
この先生は本当に、なんというか落ち着いた人だった。
感情ないのかな?って感じであまり表情はなく淡々としてるんだけど、話し方とか雰囲気から不思議な安心感を感じた。
コロナ陰性が出たとのことで、救命室?から移動。念のためということで、車椅子に乗せられる。
そのまま看護師さんに押され少し移動すると、親が待合のソファで待っていた。
「あ、お母様ですか? じゃあ、レントゲン室まで息子さん押して行ってきてもらっていいですか? あそこの突き当たり曲がったところなので」
「……え? あ、はい」
親もなんか戸惑っていた。というか、自分が親の車椅子を押す前に、押される側になるとは思わなかった。なんとも切ない感情になったのを覚えている。
あ、全然本当に関係ない話しなんですけど、自殺だけは本当にやめてほしいと思います。子が先に飛び立つことほど親不孝なことはないので。
勿論こんな軽い言葉で引き止められる程度の苦しい思いや絶望ではないとは思うのですが、踏み切る前に親の気持ちだけは考えて欲しいです。まあ、この話題は沼が深いのでこれ以上は下手なこと言えないのですが……
ということで、戻ります。
レントゲン室まで親に車椅子を押してもらい、撮影。その後、また待合室に戻りしばらく待っているとまた別の看護師さん登場。
「それでは、お部屋出来てますので入院病棟にお連れしますね。お母様は病棟行けませんので、ここで……」
「わかりました。とりあえず、明日必要な下着とか充電器とか届けるから」
ということで、親とはここでお別れ。
看護師さんに車椅子を押されながら、入院病棟まで移動。個室は希望しなかった為、病室はカーテンで仕切られた多床室。
この初日の病室は、結論からいうとヤバかった。詳細はまたあとで。
色々と入院についての簡単な説明を看護師さんから受けると共に、心臓のモニター?と血中酸素を常時測る機械をつけられた。点滴も繋いでいるので、あっという間に管だらけになってしまう。
ちなみに、この間に俺の前のベッドのじいちゃんは何度もナースコールを鳴らしまくっては、「明日の朝ごはんはパンにして欲しいんだ」と訴えていた。
四回目くらいで、「わかってますから!」って、看護師さんちょっとキレてた。
まあ、認知症に関しては仕事柄日常の世界だったので、そこまで拒否反応はなかったのだけれど。やっぱり同空間で生活するとなるとキツいものがありますね。
そんなこんなで、やっと落ち着いてベッドで横になっていると、先程の先生が登場。
「どうですか? ちょっと身体の動きを見してもらっていいですか」
とのことで、持続運動や握力等測定。ペンライトを目で追うなど今までもやっていたテストのようなものを行う。
「身体の方は動くね。ほぼ問題ないと思います。酸素状態も悪くないけど……急性期は油断出来ないのでしばらくモニターつけて経過見ていきますからね」
「あ、はい。わかりました」
「とりあえず、今回の入院は重症筋無力症の治療で一ヶ月ほど。胸腺腫の手術のスケジュール調整と手術で一ヶ月。その後の経過観察は他の人より時間かけるので、フォローに一ヶ月。まあ、大体三ヶ月ほどの入院だと考えておいて下さい」
「さ、三ヶ月ですか? そんなに……」
「重症筋無力の症状次第で、もっと長くなる可能性もありますし、短く済む可能性もあります。とにかく症状を抑えないと手術が出来ないので。頑張りましょう」
三ヶ月……仕事やばい。そんなに穴空けるとは思わなかった。っていうか、手術もこの入院の流れでやるのか。まだ、覚悟が……
「重症筋無力の治療では血漿交換という方法を考えています。今日はもう出来ないので、明日からの開始になると思いますが」
「えっと……その血漿交換ってツラいですか?」
「うーん。気持ち悪くなるということはありますね。首元に少し太めの針を刺して、そこから行います。何度も刺すのは勿論痛いし負担なので、それを二週間ほどは留置します」
……え? 首元に太い針ぶっ刺す?
それを、二週間も留置。……え?
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