緊急入院13 外科受診②

「じゃあ、この手術をやる上で起こり得るリスクを説明していきます。いくつかあるのですが、一番起こり得る可能性があるのはクリーゼという呼吸困難状態です」


 クリーゼに関しては、この病気になって色々調べていると必然的に出てくる最注意すべき症状のため、聞き慣れた単語ではあった。


「全身麻酔の影響や、手術による外傷的なショックで、一時期的に重症筋無力の症状が重くなることがあります。その際に、呼吸筋がうまく機能しなくなり自発呼吸が出来なくなってしまうことがあるんです。それが、クリーゼという状態です。これをなるべく起こさないために、症状がある程度改善してからの手術が推奨されています」


「……その状態って、結構なりやすいんですか?」


「結局個人差があるので、何とも答えにくいんですが……私の担当した手術の中でもいくつか前例はありますね」


 ということは、割と起こり得るものって事で認識していたほうがいいのか……中々恐ろしいな。


「その状態になってしまった場合は、人工呼吸器を使います。ただ、しっかり意識が戻ってしまうと苦しいと思いますので、薄く麻酔を使いながら自発呼吸が戻ってくるのを待ちます」


「えっと……呼吸が戻ってくるまでに、どのくらいかかるんですか?」


「これも個人差があるので……私が担当した人で最長は十日ほどでした」


 長いな。一カ月の三分の一使っとるやん。

 実際に自分に起こり得ることと考えると、一つひとつの説明にとても緊張感が増します。普通に怖いです。


「あと、もう一つリスクとして可能性が高いものがあるのですが。さっきも言った通り、〇〇さんの場合腫瘍がだいぶ大きいのです。CT画像を見る限り、腫瘍が横隔膜に触れるか触れないかあたりまで大きくなっています。腫瘍は再発を防ぐためにまわりの接している組織まで取り除かなきゃいけないのです。そうなると、接している横隔膜の神経部分も切除しなければならない可能性があります」


「……そうなると、どうなるんですか?」


「肺が膨らみにくくなりますね。ただ、日常生活に支障がきたさない程度ですので、大丈夫です。重篤な後遺症にはなりませんよ」


 それは大丈夫と言えるのだろうか。言っている内容はわかるし、説明もわかりやすいのだけれど。そのリスク達が、どれくらいヤバいものなのかが今いちピンとこない。未知数すぎる。


「あの、胸腺腫って……腫瘍なんですよね。要するに癌ってことですか?」 


「うーん、一般的には悪性腫瘍と良性腫瘍の真ん中あたりに位置づけられてますかね」


「……じゃあ、やっぱり他に転移みたいな可能性もあるんですか?」


「胸腺腫の状態によっては、他の臓器に湿潤してしまっているということはありますが……その場合は放射線治療、場合によっては抗がん剤とかを使って治療することもあります」


 はい、でました。聞き慣れた言葉、抗がん剤。どれくらいヤバいのか今いちピンときてなかったけど、普通に死ぬかもしれんじゃん。

 

 っていうか、死ぬんだ。もう、終わりだ。さらば、人生。遺影の写真、今の内に撮っておこう。自撮りでいいかな。斜め上から撮って、ちょっと補正かけてもいいかな。


 とか、本気で思ってました。カクヨムでも失踪したと思われたくないから、俺に何かあったら頼むって友達にログインIDとか渡しましたからね。完璧、メンタル逝ってますね。


 そんな俺の表情から、先生は色々察したようで……


「怖い話しばかりですいませんね。でも、腫瘍はとってみないと悪いものかどうかもわからないし。今は、症状を良くして手術を頑張ることだけを考えましょう」


「はい……お話し続けてもらって大丈夫です」


 そのあともいくつかリスクの説明されたけど、ほぼ起こり得ることのないような感じだったので、あんまり覚えてないです。


「さて、一通りの説明は以上になります。さっきも、言った通り"私の場合"はこのような形での手術になります」


「……といいますと?」


「近年では、胸を開かず小さな傷で済むロボットを使っての手術もあるんです。勿論、ここでは出来ません。それが出来る病院は、ここら辺だと〇〇大学病院ですね。希望されるのであれば、そちらに紹介状を書くこともできます。どうされますか?」


 ……内視鏡みたいな感じで済むってこと? 傷小さくすんで負担少ないなら、そっちのがよくね? というか、そっちの方がいいです。


 という思考が瞬時に生まれました。

 そして、この選択が後々悲劇を生む訳です。

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それでも、また陽は登る フクロウ @hukurou1453

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