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「と言っても、これは全部兄上が言い聞かせてくれたことなんだ。」

それを聞いて初めて一理あるような気がした。

「…できた人だな、土方さんは」

「そうだよ。血の繋がりがない私をこの上ない愛情をかけて育ててくれた。兄上がいなかったら、私はとっくに死んでいた。」

「…実の兄妹ではないのか」

一はそんなことを微塵も感じたことはなかった。寧ろ、よく似ていると思っているくらいだ。

「うん。実を言うと、私は出自がわからなくて実の両親の顔もあまり覚えていないんだ。土方家に来たのは四つの頃で。うちは私を除くと六人兄弟で歳三兄上は末っ子なんだけど、早くに両親が亡くなっているから兄様や姉様に育てられたみたい。私を拾ったのは兄上が十五のときだってさ。」

真命は世間話をするような調子で話していて、この前の総司を思い出した。

ここにいるものは居場所のない者が多い、と。

「私はそんな兄上や仲間たちを守れるようになりたくて剣術を始めることにしたんだ。」

点と点が一気に繋がっていくような感覚があった。いつかの近藤の言葉だ。己の誠を見定めよ、と。

「少し話しすぎたな。鍛練中、すまん」

真命は苦笑しながら立ち上がった。

「……いや。これも、鍛練になった」

「何か掴めたのか?」

「…そう言っておく。」

一がそう答えると、肩に真命の手が乗せられた。頼むぞ大将、と。

「じゃ、おやすみ~」

「…あぁ」

真命は奥へ去って行った。一はまた静寂の中ひとりになった。

天然理心流を相手にするとは何たるか。

"彼ら"の誠とは何か。

目を閉じるとまた太刀筋が見える。そして、耳の奥で木刀と木刀がぶつかり合う音が響いた。

一は、開眼する。

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