1-5

「おや皆さん、もうお集まりでしたか。」

「あ、山南さん!近藤さんはー?」

「近藤さんは奥方とお食事をなさってますよ。沖田くんは相変わらずですね。」

山南敬助は総司を見て微笑んでいる。落ち着いていて博識な山南は食客の中で一番話が通じそうである。

「山口くん、沢山お食べなさい。この後の稽古にも参加するといい。」

「…はい。」

一度、天然理心流とやらに触れてみるのも良いだろう。自分をここまで追い詰めた流派となれば、その実態を知りたいところである。

一は膳に手を付けた。いつも質素だが味は悪くない。

少しずつ慣れては来たもののここまで沢山の者と食事を共にすることはなかったためか身の置き所に困る。

誰かしら何か喋っているし、賑やかというやら騒がしいというやら。

「なあなあこの前さ、近藤さんに強くなるにはどうしたらいいかって聞いたんだけど」

藤堂が喋り出すと、総司が反応する。

「で、近藤さんは何だって?」

「己を知り相手を知ることだってさ。学問みたいで難しいよなー。」

学問もなにもそれはかの有名な兵法だろう、と一は心の内で突っ込んだ。

「孫子の兵法ですね。己を知り相手を知れば百戦にして危うからず…です。」

その一の心の内を代弁したのは山南だ。

「でもそれって相手の好きな食べ物とか、好みの女を知るっていうのも含まれると思う?」

兵法をそう解釈した奴を見るのは藤堂が初めてだ。

「そんなの知ってどうするんだ?何か役に立つか?」

原田が首を傾げているが、全くその通りだろう。

しかし、今まで飯を食うことだけに集中していた真命が突然「それはありじゃない?」と言い出した。

「意外とそういうところから綻びは生まれるのかもよ。」

山南は頷いている。

「確かに、本当に敵を倒すなら弱みを握るのは得策と言えるでしょう。良い解釈だと思いますよ。」

こいつ、単に食うことと木刀を扱うことだけが能じゃないやもしれぬ。一はひとり警戒心を強める。予想以上の強敵かもしれない。

「なんだ、真命すげーな!褒美に沢庵やるよ!」

「いいの!?永倉さん!!」

……いや、そんなのとても認めたくはない。

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