1-4

竹刀と木刀がぶつかり、使い古した竹刀は弾き飛ぶのと同時に二つに割れてしまった。

「あーあ、酷い負け方だなぁ。」

真命との試合の様子を手枕で寝そべって眺めていた総司が揶揄する。

一は舌打ちした。数日間通い詰め真命に勝負を挑むが一向に勝てる気配がなかった。

「おっ、やってるな?」

「あっ、近藤さん!」

寝そべっていた総司が飛び起きた。体格が良く獅子を思わせるが、その見た目とは裏腹に穏やかな表情を浮かべるこの男。試衛館の道場主だという近藤勇である。

「真命、また腕を上げたのではないか?」

「そうですか?では今度手合わせお願いします!」

「はっはっは、臨むところだ。」

近藤の口はげんこつが入りそうなくらい大きい。

そしてにこやかに一に語りかける。

「山口くん。うちの真命は強いだろう?」

「……はぁ」

認めたくはないがそうせざるを得ないところが苛つく。

更に僕の方が強いけど、と総司が気が遠くなるような横槍を入れてくる。

「うちの流派は天然理心流と言ってな。実戦を想定した戦い方を得意としているんだ。」

「この重い木刀も、真剣の重さに慣れるためのものなんだよ。」

近藤と真命がそう説明する。一は何となく納得できた。

確かに真命の戦い方は剣の動きだけでなく体も上手く使っている。

それに回数を重ねて気付いたが、真命は動作の速さを頼りに攻撃を仕掛けてくる。表現を換えるなら、力業に持ち込まないようにしているような雰囲気もあった。

弱点は見えるのだが、中々隙を突くことが出来ずにいる。

「興味があれば、君もうちで天然理心流を学ぶといい。」

近藤は一の肩に手を置いた。大きくて皮の厚い手だ。

「さ、そろそろ昼飯だ!山口も行こうよ!」

今度は真命に手を引かれ、一は囲炉裏がぽつんとある居間に連れて来られた。

そこにはもう何となく顔を覚えた門人たち、いや食客たちがいつも通りたむろしていた。

「よう山口!性懲りもせず毎日よく来るじゃねーか!」

この豪快な男は永倉新八。剣術の流派は神道無念流。

かなり腕が立つと聞いている。

「ま、負けて尻尾を巻いて帰ったきりよりはよっぽどいいだろ。」

着物の隙間から見える、腹に真一文字の傷があるこの男は原田佐之助。後に一戦を交えてみたいところだが、種田宝蔵院槍術という流派で所謂ところ槍の使い手らしい。

「なぁ、山口もいっそここに住み着いたらどうなんだ?近藤さんもきっと賛成してくれるって!」

一の傍に寄ってきたのは、自分とさほど年端は変わらないだろう藤堂平助。北辰一刀流の使い手。

「…この道場はそんな無法地帯で許されるのか?」

こんな風に、他流派だらけの混沌とした道場など風変わりにも程がある。

「それもうちの"流派"ってことなんじゃない?」

総司、沖田総司はさらっとそう言った。

この男は若いが試衛館の塾頭を勤める程の実力者らしい。つまり、最終的にはこいつを倒せば良いということだ。

「総司、今日は良いこと言うね。」

そして女中から膳が運ばれてくるなり真っ先に飯を掻き込む大福男の正しい名は土方真命だ。

「今日は、っていつもでしょ。」

この二人はいつも無駄話ばかりしている。それも、本当に下らない内容ばかり。子どもの頃からの仲だと聞いたが一向に成長していなさそうである。



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