1-14

宴会は予想通りのどんちゃん騒ぎだ。

食客たち、特に永倉や原田は酔っ払って踊り出す。酒を飲まず相変わらず食ってばかりの真命はそれに混じっていた。よく素面しらふで出来るな、と一は思っていた。

そのうち寝転がり始める者が増え、起きているのは故郷が近くとりわけ旧知の仲だという近藤、井上、土方兄妹、総司、そして一のみとなった。

「…ってなことでよ、さすがに今回は骨が折れた。真命を連れて行きゃあ良かったと途中で思ったぜ。」

土方の土産話を肴に、心地の良い時間が流れていた。

「だからお供すると言ったんです。でも、兄上が残れと聞かないので。」

むくれて話す真命を見て、近藤が笑った。

「歳は道場の留守を任せたかったんじゃないか?総司は頼もしいが、お前がいれば鬼に金棒なはずだからな。」

「そうなのですか?兄上?」

「ん…まぁあながち間違いではねぇさ。」

土方は猪口を傾ける。真命はその一言を聞いて、照れ臭そうに笑っていた。余程嬉しいのだろうと一目でわかる。

「真命は本当に兄上がお好きですね。」

微笑ましい、と井上。

「そりゃ、当たり前ですよ!兄上は私の恩人であり、親のようでもあります。私は兄上のような人間になりたいのです!」

真命は生き生きと話すが、当の土方は素知らぬ顔をしている。総司は「本当になれるの?」とか、からかっている。

「それにしても驚いた。山口は結構酒に強いんだな。総司にもひけをとらない。」

そう言う土方は酒に弱いらしく、ちびちびと飲み進めている。

「今度限界まで酔った状態で試合したら面白いかな?」

「それ見たいかも!」

総司がふざけた提案をする。それにすぐ乗っかるのは真命である。

「…下らん。剣を何だと思っておる」

「つまんないなぁ、真面目すぎるんだよ一くんは。」

総司の毒舌を和らげるように、「そこが良いところですよ」と井上が言った。

「山口くんは良き武士となるだろうな。」

井上の言葉を受け、近藤は頷いている。

そう褒められてもどう反応すれば良いやら、と一は思う。

「えーっ、何でですか?」

総司はどこか不服そうだ。真命は単なる興味だろうが、「私も聞きたいです!」と目をくりくりさせている。

「いつもの近藤"先生"の出番じゃねぇか?」

「よせよ、歳。だが、まぁそうだな…少し時間を貰おう。」

土方に茶化されてきまりが悪そうにしている近藤だが、若い者たちの目を見ながら静かに語り始めるのだった。

「良いか。武士とは"誠"だ。誠とは真心であり、偽りのない、曇りなき情である。それを最期まで忘れぬことが武士としての徳なのだ。」

"誠"。

一の胸につかえることなく落ちて、身に馴染む響きだった。

「己の誠を見定め、身命を賭して忠義を尽くせ。さすればお前たちの道は必ず拓くだろう。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る