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宴会は予想通りのどんちゃん騒ぎだ。
食客たち、特に永倉や原田は酔っ払って踊り出す。酒を飲まず相変わらず食ってばかりの真命はそれに混じっていた。よく
そのうち寝転がり始める者が増え、起きているのは故郷が近くとりわけ旧知の仲だという近藤、井上、土方兄妹、総司、そして一のみとなった。
「…ってなことでよ、さすがに今回は骨が折れた。真命を連れて行きゃあ良かったと途中で思ったぜ。」
土方の土産話を肴に、心地の良い時間が流れていた。
「だからお供すると言ったんです。でも、兄上が残れと聞かないので。」
むくれて話す真命を見て、近藤が笑った。
「歳は道場の留守を任せたかったんじゃないか?総司は頼もしいが、お前がいれば鬼に金棒なはずだからな。」
「そうなのですか?兄上?」
「ん…まぁあながち間違いではねぇさ。」
土方は猪口を傾ける。真命はその一言を聞いて、照れ臭そうに笑っていた。余程嬉しいのだろうと一目でわかる。
「真命は本当に兄上がお好きですね。」
微笑ましい、と井上。
「そりゃ、当たり前ですよ!兄上は私の恩人であり、親のようでもあります。私は兄上のような人間になりたいのです!」
真命は生き生きと話すが、当の土方は素知らぬ顔をしている。総司は「本当になれるの?」とか、からかっている。
「それにしても驚いた。山口は結構酒に強いんだな。総司にもひけをとらない。」
そう言う土方は酒に弱いらしく、ちびちびと飲み進めている。
「今度限界まで酔った状態で試合したら面白いかな?」
「それ見たいかも!」
総司がふざけた提案をする。それにすぐ乗っかるのは真命である。
「…下らん。剣を何だと思っておる」
「つまんないなぁ、真面目すぎるんだよ一くんは。」
総司の毒舌を和らげるように、「そこが良いところですよ」と井上が言った。
「山口くんは良き武士となるだろうな。」
井上の言葉を受け、近藤は頷いている。
そう褒められてもどう反応すれば良いやら、と一は思う。
「えーっ、何でですか?」
総司はどこか不服そうだ。真命は単なる興味だろうが、「私も聞きたいです!」と目をくりくりさせている。
「いつもの近藤"先生"の出番じゃねぇか?」
「よせよ、歳。だが、まぁそうだな…少し時間を貰おう。」
土方に茶化されてきまりが悪そうにしている近藤だが、若い者たちの目を見ながら静かに語り始めるのだった。
「良いか。武士とは"誠"だ。誠とは真心であり、偽りのない、曇りなき情である。それを最期まで忘れぬことが武士としての徳なのだ。」
"誠"。
一の胸につかえることなく落ちて、身に馴染む響きだった。
「己の誠を見定め、身命を賭して忠義を尽くせ。さすればお前たちの道は必ず拓くだろう。」
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