1-13

「おおとし!戻ったか!」

「歳くん、お帰りなさい。」

玄関に入ると、近藤と試衛館門人のひとりである井上源三郎が出迎えに来た。

そういえばと思い返してみれば、井上は一が道場破りに来た際に初めて会った門人だ。面子の中でも最年長らしく、いつも優しそうな笑い皺を作っている。よく近藤のそばにいて、道場の雑用なども買って出ている。

「おう、ただいま。出迎えありがとさん。」

「ねぇ近藤さん、源さん!お土産、大福と饅頭だって!」

草鞋わらじを脱ぎ捨てて上がる真命、一方で土方は丁寧に揃えている。

「おら真命!草鞋は揃えろと言ってるだろうが」

「あっ!そうだったごめんなさーい。」

土方に叱咤され、真命はいそいそと草鞋を揃える。

「怒鳴り声が聞こえると思ったら、土方さん帰って来てたんですね~。」

「総司か。今帰った。」

奥から何やら空の器を持った総司が出てきた。

「ていうか、僕の握り飯食べたの誰?大体検討付くけどさぁ」

少々どすの効いた総司の声音。真命はそれに反応し、脱兎の如く駆け出した。

「やっぱりお前か!!絶対許さない!待て!!」

総司はそれをばたばたと追いかけていく。

「てめぇら走り回るんじゃねぇ!」

土方の怒号も響き、いよいよ騒がしいったらない。

「すまんなぁ山口くん。ここは元気が有り余っている奴らばかりでな。」

近藤は穏やかに一に呼びかける。一には近藤が子どもたちを見守る父親のように見えている。

「…もうだいぶ慣れました」

一が試衛館に滞在するようになってふた月余り。徐々にこのうるさいのが日常になっているから不思議だ。

「そうですか、良かった。山口くんもすっかり馴染みましたね。」

井上が安堵したように言う。

「どれ折角歳も帰ったことだし、今夜は酒でも飲もうじゃないか。」

「それはいい!ツネさんにお伝えしておきます。」

近藤と井上が口々に話し、酒盛りをすると決まると皆浮き足立っていた。稽古とは別の気迫のようなものさえ感じるのは気のせいか。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る